「先生……カリムッ!?」
アルの声。
体が動かせないから確認できないが、声だけだと俺と同じように走って帰ってきたらしい。
アルはそのまま俺の側まで駆け寄り、それに気づいた。
「っ…! これは―――――」
驚きの声をあげて、先生の方に向き直るのが気配でわかった。
「これは、どういうことですか?」
「君までカリムのようなことを言うのかNo:7? 彼女がこうなることは前から決まっていたことだ。
そして君はそれを知っていた…驚く事ではあるまい」
何だと?
今奴は何と言った?
ファムが殺されることは決まっていた――――――
そう言ったのか?
そしてアルもそれを知っていた……だと?
急な話に頭がついていけない。
だがその間にも2人の会話は進んでいく。
「じゃあ…今回の仕事はやっぱり…」
「そうだ。君たち3人はファム=レイグナーと親しい関係だからな。いざ殺す時に邪魔されては困る。
だから遠ざけた、だが彼女が自分の部屋にいなかったのとカリムが帰るのが早かったのは予想外だった」
そう言って先生はもう動く事のないファムのところまで歩み寄り、その体を担ぎ上げた。
「ではカリムは君の部屋にでも寝かしておけ、あと数時間は動けないからな」
本当は何か言わねばいけない。
動く事ができないなら何か言わねばいけない。
だというのに俺は何も言う事ができない。
まだ頭の中がはっきりしないでいる。
先生が俺の横を通り過ぎ、歩いていく。
そこでアルが声をかけた。
「先生」
「何だ? あまり時間がないのだが?」
「やはり俺はこんなの納得できません。他にも何か方法が――――」
「無いからこうしているんだ。で、それだけか?」
「…………はい」
そして再び歩き始める先生。
しばらくして足音は聞こえなくなった。
「……アル」
「とりあえず先に俺の部屋に行こう」
ひょいと俺の体が持ち上げられる。
そのまま部屋まで無言で運ばれ、ベットの上に下ろされた。
アルが近くの椅子に座る。
そのまま続く無言の世界
本当はアルにいろいろ聞きたい
だけどさっきのアルの辛そうな声を思い出す―――
本当に辛そうな声だった。
それを思うとどうしても聞けなくなってしまう。
「カリム」
聞くのを躊躇っているとアルから口を開いた。
「ファムちゃんのことだが、黙っていてすまない」
「それだ、アイツが殺されるのが決まってたってのはどういうことだ?」
動けないからか、それとも頭がこんがらがったせいか少し落ち着いている自分を自覚する。
だが話をするにはそっちの方が都合がいい。
それに今は疑問を解決させるのが優先だ。
「詳しくは俺も聞かされていない。ただファムちゃんが"世界の敵"になる者だから……としか」
「世界の…敵?」
ただでさえワケがわからないのに、もっとわからない話だ。
世界の敵ということの意味もそうだが、アイツがそんな存在だなんてとてもじゃないが思えない。
それに何故それを先生が知ってる?
「あ〜……わけわかんねぇ」
「俺だってそうだ。とにかく先生から直接聞くしかないんだが…俺やサリスには話さないだろうな」
「そういやサリスは?」
「例の盗賊を警察機構に引き渡してる。もうそろそろ帰ってくるだろ」
「確かサリスも知ってたんだろ?」
「ああ。でも納得はしないだろうな、俺みたいに。なだめるのが大変だ」
落ち込む暇もない――――――
と呟いてまた無言の世界に戻る。
その世界の中で
動けない体のままで
時間だけがただ過ぎていった。
その時間がファムが死んだということをより明確に俺の心に刻みつけた。
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