それはいつの話だったろうか。
子供の頃のアヤフヤな記憶。
俺がディスウィリウムに連れてこられて俺以外の孤児の集まりの中をうろうろしていた時。
どいつもこいつも泣き叫んだり暴れたりしてうるさいと自分だって子供のクセにそう思っている中
いきなり服の端をつかまれた。
驚いて振り向くと自分より年下の女の子が俺を見上げていた。
「何だよ?」
「………お兄ちゃん」
「………………はぁ?」
まさか俺を兄と勘違いしてるのかコイツは。
いきなりな事で少々戸惑ったものの、はっきりと言ってやった。
「いいか、俺はお前のお兄さんじゃない」
「じゃあ…ダレ?」
「カリム=ウォーレンってんだ。な? 違うだろ?」
「……カーム?」
「聞いてないし」
「カーム?」
「カリム。カリム=ウォーレンだ」
「カ……カーム?」
「ああもう! 違う!! カリムだカリム!!」
どこをどうしたらカームになるんだよ一体。
女の子を睨みつけると、あうあうとうろたえ始めた。
これではまるで俺が悪者ではないか。
はぁ、とため息をついて女の子に目線を合わせるためしゃがむ。
「いいか。カリムだ、もう1回言ってみろ」
「カ…カ……カー…カー…ム」
再びあうあうとうろたえ始める女の子。
何て言うかもう…諦めたほうがいいらしい。
「あーもうそれでいい。カームでいいから落ち着け」
「カームでいい?」
「ああ」
「カーム!!」
「うおっ!? いきなりとびつくな!!」
「カーム、カーム〜♪」
「はーなーーれーーーろーーーーっ!!!」
何ていう無茶苦茶な出会い。
それが俺、カリム=ウォーレンと
ファム=レイグナーとの出会いだった。
「……ん」
起き上がる。
自分を囲む真っ白な壁
全然フカフカでもなんでもないベット
そして鉄格子―――――
つまり見た物全て統合すれば牢屋みたいなもんだ。
「……最悪なご帰還ってわけだ」
ここが何処かなど聞くまでもない。
帰ってきたのだ(帰らされたとも言うが)ディスウィリウムへ。
とりあえず懐かしい空気を思いっきり吸い込む。
と傷のことを思い出した。
あわてて確認してみるが傷は綺麗に無くなっていた。
恐らくここに放り込まれる前に魔法ででも回復したんだろう。
「さて…と」
もちろん武器など取り上げられているからない。
仮にここから出れても、ここの地理を把握してると言っても
逃げ出すのはえらく困難だろう。
だったらちょうどいい―――――
「いいかげん覚悟を決めるか」
そう、決めてしまえばいい。
いつまでも悩むくらいなら――――――
だがとにかく今はそんな事よりも優先すべき事がある。
「誰でもいいから飯をくれーーーーーっ!!」
腹が減っては戦もできぬ、だ。
「いきなりなのに元気なことだな」
と鉄格子の向こうに1人の男性が姿を見せる。
「……お元気そうですね先生」
「君も元気そうでなによりだよカリム」
その男―――――――俺の先生はそう言ってニカッと笑う。
そして懐から銃を取り出し
躊躇もせず俺めがけて発砲した。
それはあまりにも自然な動作で実際美しいと思えるほどだった。
命を刈り取る銃弾は俺へと牙をむく
第4章 〜逃げた過去と迫りし過去〜 完
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