いきなり背後にオーティスでない人物が立っていたので驚いた。
 慌てて警戒するが、どうやら俺のことは眼中にないらしい。
 オーティスを見れば眼が元通り普通になっていた……第3者の介入で熱が冷めたってところか?

 そして眼の前の男をもう1度見る。
 ボサボサの頭でだらしなさそうに見えるが、どこか熱いものを持っている感じのする男だ。
 加えて"感染者"ときた―――――――眼が緑色だ。
 何だかめんどくさそうな雰囲気になってきたなと思っていたら男が口を開いた。

「まぁいい。お前をあの時しとめなかったのは俺のミスだ、自分で挽回するさ。だが先に用件を済まさせて
もらう」

「好きにしろ」

 オーティスはそう答えて大きなため息をついた。
 男はそれを見てこちらに話しかける。

「俺の名はスラケンス=アンメルバだ。さて、カリム=ウォーレン。我々は簡単に言えば君をスカウトしに
やってきた」

「スカウト?」

「そうだ。君は"覚醒者"になった選ばれし者だからな」

「"覚醒者"……?」

 そんな呼び方をされるのは初めてだ。
 今までは"感染者"だったもんな。

「特殊な能力が使える"感染者"ってとこだ。ま、とにかく俺はそういう人間をスカウトしてるんだ。
で、君もスカウトしたい……どうだ?」

 俺みたいに能力が使える"感染者"を集める組織のスカウトねぇ…

「もし断れば?」

「その気になるまでスカウトに来るさ。ただ――――――」

 と言葉をきり、オーティスを睨む。
 オーティスはもはや完全に冷めてしまったらしく退屈そうにしていた。

「君があの男について行く、またはつれられて行く場合はあの男ごと君を殺す」

「ついて行く気もないし、拉致されるつもりはもってのほかだが……物騒な話だな」

「しかたないだろう。数少ない戦力を敵に回すくらいなら殺すほうがいい」

 そう語るスラケンスの眼は既に殺気を見せていた。
 つまり殺す準備はいつでもできてるってことだ。

「返事は? カリム=ウォーレン」

 スラケンスがゆっくりと聞いてきた。

 まぁそうでなかろうがどうだろうが

 いちいち考えるまでもないが――――――

お断りだな

「では、あの男はどうするんだ?」

 俺の返事に特に驚くでもなくスラケンスはオーティスを指し示した。

「別に。あいつにも従う気はない」

そうか、では今のうちに奴は殺そう

 そう言ってスラケンスが跳ねた。
 最初の跳ねで加速をつけ。
 次の跳ねでさらに加速し、オーティスとの距離を半分にした。
 あと2回もすればオーティスに辿り着くだろうがオーティスも自分を殺そうとする相手が迫ってくるのを
待つだけのバカじゃない。
 手をかざす。
 オーティスの前方に陣が描かれ、スラケンスが足をつけた地面からいくつもの土の槍が突き出てくる。
 地面を蹴ろうとした瞬間だったため避けられもせずにスラケンスは魔法の直撃を受けた。


 受けた――――――――ハズだった。


 なのに次の瞬間には、ナイフで襲い掛かるスラケンスとそれを避けるオーティスがいた。
 もちろんスラケンスが"覚醒者"だと想像していなかったわけではない。
 スカウトの時に、相手が襲ってくる可能性もあるのだから当然スカウトする人間も"覚醒者"でなければ
話にならない。
 だからスラケンスが"覚醒者"でも不思議はない、むしろ当然だと言える。
 だが問題はその能力が何かわからなかったということだ。

 今見た限りではオーティスの魔法の直撃を受けたスラケンスがオーティスの背後に現れた…という
ようにしか見えなかった。

「空間転移?」

 呟いてみるがどうも違う気がする。
 何かが違う。
 空間転移と決め付けるには何かが――――――

「ん?」

 いやいや…何でそんなこと考えてるんだ俺は?

 別に今のうちに逃げてしまえばいいだろうに。

 スラケンスはオーティスを殺そうとしているだけだし、俺もそれで困りはしない。

 だけど――――俺はその場から離れられなかった。

 それどころか2人の周辺に向かって銃弾を投げて

「赤の契約によりうまれし鉄槌!!!」

2人を攻撃していた。


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