俺が初めて本気で心の底から殺したいと願った人物は
俺よりも年下の、俺に訓練で1度も勝てた事の無い少年だった。
訓練の時そいつは何が気にくわないのか倒されても何度でも挑んできた。
そしてついには完全に動けなくなるくらいに痛めつけるのだが、それでも少年は
その憎しみとも悔しさともとれる眼でこちらを睨んでくる。
そいつが自分と同じ教室だったということに気づいたのは、訓練で10回程
動けなくしてやった時だった。
少年の名は、カリム=ウォーレン
それからもしばらくは同じような時間が過ぎた。
だが変化とは常に唐突に訪れる。
ある日、かねてから研究していた銃のテストとして俺とカリムが選ばれた。
模擬弾を使っての戦闘訓練――――
カリムが銃の分野での訓練もしていたのは知っていたが、勝負にならない訓練では意味が無い
と思ったので先生にやめるようにと頼んだ。
先生はそれにただ一言。
「お前でカリムに勝てるかな?」
とだけ言った。
そのまま訓練の日となった。
銃を使うというだけあっていつもの訓練場ではなく広いグラウンドで行われる。
距離をとってカリムと向かい合う。
中央に位置する先生がコインを上に投げる。
宣戦布告――
そう考えて地面に落ちるコインを奴が動く一瞬前に撃ち抜こうと考えた。
だがそれは向こうも同じだったらしい。
まったく同時に銃を構えて撃つ。
落ちるコインめがけて2つの弾丸が迫っていく。
―――――――俺の弾丸はコインの裏に
―――――――カリムの弾丸は表に命中した。
その一連の事が終わるのを傍観者のように眺め、驚いた。
カリムが俺と同じ事をできると思っていなかったから。
そして唐突に理解した。
カリム=ウォーレンはこと銃を使っての戦闘ならば俺と同等か上だということに
しかし―――――――
頭で理解しているというのにそれを認めようとはしなかった。
ただの1度も俺に勝てなかった奴が銃を持ったというだけで俺より強くなった
という、そんなバカな話を信じたくはなかった。
だからすぐに動けなくしようと行動に出た。
響く銃声。
それは俺の銃から発せられたものではなく、カリムのものだった。
次の瞬間――肩に鈍い痛みが襲い掛かった。
恐らくはその時だっただろう。
俺が本気で戦ったのは。
勝負は引き分けで、俺とカリムにはくしくも
"コインの表"と"コインの裏"
という2つ名がつけられた。
そして今――――
その場面が再現された。
カリムに昔の感覚を思い出させる為にしてのだが効果は絶大だったらしい。
そこまではいい。
だが、奴が使った魔法のようなものは何だ?
わからない―――――
でも俺を本気にさせるにはそれでいい。
眼の前の敵を見据えて、呟く。
「もういい、死ね」
己の体に全力での行動を命令する。
視界が瞬時でカリムの背後を捉える。
迷わず心臓を狙った、その時。
後ろからの衝撃――――
そこで俺の熱は一気に抜けてしまった。
邪魔が入って熱くいられないのはいいことだが、今回ばかりは邪魔者を憎む。
衝撃はただの蹴りによるものでたいしたダメージもなく、地面を転がりながら受身をとる。
立ち上がって邪魔者を確認する。
そいつは俺を瀕死に追いやった奴だった。
「お前か」
自分でもつまらないとわかるくらいの声だった。
それに気がついてカリムがこちらを見る、次いで背後に立っている男を見て警戒の体勢をとった。
「何で生きてるんだお前?」
カリムを追いかけていたハズのそいつは、でも眼の前にいるカリムには眼もくれずこちらに
質問してきた。
「手品師が手品のタネを明かしたりはしないんだろう?」
やはりつまらなさそうな声で俺は答えた。
ああ―――――――冷めてしまった。
どう責任をとるつもりだ…お前?
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