赤い風の渦が消えて――
 後に残ったのは焦げた地面や

 あちこちに切り倒された樹に

 小さな残り火。

 そして――――1人の人間。
 オーティス=アハンティアだった。

「やっぱ生きてたか」

 眼の前に立っているオーティスは無傷だ。
 もちろん予測していたことではあるが。
 そのオーティスは相変わらず無表情だ。
 まるで他人を寄せつけまいとするその表情。
 だけど心の中では笑っている――――

これでもかというくらいに笑っているに違いない。

 俺にはそれがわかった。

「やはり…お前は"コインの表"だよ。あの頃と寸分違わぬままの………な」

 そう言うオーティスの眼はまるで死人のようだった。
 そしてそれが―――――――――――


オーテイス=アハンティアという人間が本気になった時の合図である。


「殺すことは禁じられているが―――」


 死人のようなその眼で俺を見つめオーティスはにやりと笑った。


「もういい、死ね


 呟くと同時にオーティスの姿が消えた。


◇◇-----------------------------------------------------------------------------◇◇


 まったく重労働もいいとこだ。
 昨日の夜に近くの街まで感覚が広がったが、カリム=ウォーレンらしき人物は見当たらなかった。
 よって感覚の広がる速度を最大限にした。
 夜中にはだいぶ広い範囲に感覚が広がったがそれでも見当たらない。
 めげずにそのまま感覚を広げているが、自動的に広げるのと違うために疲れる。

「やっぱりアイツに頼んだほうが早かったのかね…」

 少し後悔してきた。
 その時もはや馴染みの声が聞こえてくる。

//―――――スラケンス=アンメルバ――――――//

「珍しいなフルネームで呼ぶなんて」

 笑いながら返事をする。
 もっとも声の相手はこの場に存在しない。
 存在するはずがない、ここは地面の中なのだから。
 だけども相手の声はよどみもなくクリアに聞こえる。

 いや―――――叩き込まれる。

 頭の中に直接声が響くのだ。
 初めて聞いた時は驚くどこではなかったが、今では完全に慣れてしまった。
 だからこれを"聞こえる"と表現しても不思議でなくなった。
 おまけに俺の能力の性質上、コイツの能力がなければ他の仲間と連絡のやりとりができないので当たり前
のようにコンビとして扱われているが、別にそれで満足だ。
 だからこそフルネームで呼ばれたのは意外だった。

//―――――特に意味はない、呼ぼうと思っただけだ。それより手伝わなくていいか?―――――//

「ああ、大丈夫…と言いたいがもう少しして見つからなかったら手伝ってくれ」

 さすがに疲れてきた。
 もう夜が明けようとしている。

//―――――あまり無理をするなよ―――――//

「わかってる……っと!」

//―――――見つけたか?―――――//

「たぶん間違いない。ちょっと待てよ」

 どこかの駅の近くを歩いている人物を確認する。
 俺の能力では大雑把にしか確認できないが、恐らく間違いない。
 近くにもう1人誰かいるのでついでに確認する。


 その瞬間――――


俺は夢を見ているのかと思った。


「な……に?」


 思わず声が漏れる。
 だって奴が――――――ここにいるはずない。

//―――――どうした。何か問題でもあるのか?―――――//

「いや…何でもない」

 そうありえるはずがない。

 奴は死んだ―――――――ハズだ。

 だが俺は奴の死亡を確認したか? ――――――――いや、していない。

 だがそれならどうして生きて、歩いている?

 全身に火傷を負っていたのだ、そんなに簡単に歩けるはずなどない。

 だがこれではまるで――――――

「ええい……俺らしくない」

 ありえないなんて悩むなど俺らしくない。
 そんなの自分の眼で確かめればいい。
 それが俺らしいやりかただ。

「今から"覚醒者"カリム=ウォーレンに接触する。事が済み次第連絡する」

 そう告げて俺は相手の返事も聞かずに行動に移った。
 感覚が一点に集中される。

 真実は

 すぐに

 確かめられるはずだ。

 自分にそう言い聞かせた。


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