歩く。

 眼の前の人物に連れられるかのように。

 駅からも街からも遠い山中の街道。

 そこで眼の前の人物―――オーティス=アハンティアは立ち止まった。
 俺も少し離れた位置で止まる。
 オーティスがゆっくりとこちらに振り返る。

「よく俺がここで降りるってわかったな」

 とりあえず聞いておきたかったことを聞く。
 オーティスはさもつまらなさそうに口を開いた。

「お前が揉め事を起こして逃げる時は灯台下暗しと言って近くに隠れるか、近くも遠くもない所に逃げる
かだったからな。もっともいきなり当たりとは思っていなかったが」

 ………言われてみればそうだったような気もする。
 つまり俺の逃げる場所なんて奴は最初からお見通しだったわけだ、憎たらしい。

「俺から聞きたいことがあるんだが」

 珍しい。
 本当に珍しい。
 奴が俺に質問!?
 ……何か変なものでも食ったのか?

「…したけりゃどうぞ。どうせ拒否権なんてなさそうだし」

 皮肉っぽく言ってやったのに気にもせず奴は続けてくる。

「お前は誰かに追われているのか?」

「………………アンタに追われてるけど」

「俺以外でだ」

 バカかお前はと眼が語っている。
 だけど俺は奴以外に追われるようなことをした覚えはない。
 いったい何のことを言ってるんだ?

「その様子だと本当に何のことかわからないらしいな」

「ああ、悪いけどアンタが言うようなことは心当たりがない」

「ならいい。では次だ…お前は何で生きている?」

「アンタも変なこと聞くなぁ…生きてるから生きてる。そんだけだろ」

「そうだな。では大人しく戻るつもりは無いな?」

当然

 少なくともテメエにだけは従いたくないんだ俺は。

「どうせわかってたんだろ……No:1」

「その名で呼ぶな―――――"コインの表"」

「そんなの―――――昔の2つ名だ、今の俺には関係ないね」

「お前が関係あろうがなかろうが俺にとってお前という存在はまぎれもなく"コインの表"なんだよ。
例え今のお前が昔より劣っていたとしても……だ」

 お互い無言で戦闘体勢をとる。
 奴が懐からコインを出して軽く上に投げる。

 昔の2つ名で呼んだり

 コインなんてものを合図に使ったり

 そんな余計なことをしたりするから思い出したじゃねぇか

 それとも――――

 思い出してほしかったのか

 どちらでもありそうだし、どちらでもなさそうな気がする。

 ともかく確かなのは思い出した奴の2つ名――――

「なぁ…"コインの裏"!!」

 叫ぶと同時に俺と奴の銃から銃弾が放たれる。
 そのお互いが放った銃弾はお互いを狙ったものではなく、地面に落ちる寸前のコインを狙ったものだった。

 俺の銃弾は――――"コインの  "に。

 オーティスの銃弾は――――"コインの  "に

それぞれ同時に命中する。
 そしてそれが合図となった。
 俺とオーティスはそれぞれ反対の方向へ移動し茂みの中へと入り、樹の後ろに隠れる。
 これで迂闊に動けなくなったが、それはオーティスも同じだろ――――

チュィンッ!!

 頭上を何かが通り過ぎた。
 眼の前の樹を見ると小さい丸い穴ができている。
 慌ててしゃがみ込むと、体が存在していた場所を2、3の弾丸が通り過ぎた。

 何だったか…"貫通弾"だったっけ?
 ともかく滅茶苦茶だ。

「……っくそ!」

 立ち上がると同時に走り出す。
 やっぱりというか何というか―――
たった今俺がいた場所に雷が落ちた。

 止まれば死ぬ。

 本能がそれを告げ、体を走らせる。
 雷と銃弾が俺の走る後について来る。

「どうした! 今のお前はその程度か!? ―――"コインの表"っ!!」

 そんな最中に聞こえるオーティスの声。
 それは俺を挑発するためであるのはもちろん、俺はここにいるぞと余裕をみせるためのものであると
すぐに理解する。

 昔と同じように―――

「ったく…一応知り合いだから使わないでおこうと思ったのによ」

 その他人を見下すような感じ

「いいぜ! もう1度本気にさせてやるっ!!」

 俺はそれがすごく嫌いだ―――――だから

「赤と緑の契約よ!!」

 銃を声がした方向に向け、撃つ。
 だから―――俺たちに2つ名がつけられた時に戻してやる。

 オーティスの隠れているだろう樹に命中した弾は、爆炎をまとった風の渦を発生させる。
 周囲の樹々を燃やし、切り裂き、吹き飛ばす。

 その中で俺は確かにオーティスがそれに巻き込まれたのを見た。


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