「はぁ…食った食った〜」
なにやら街の名物料理を食い尽くした男になってしまった。
食後の運動を兼ねつつ夜の街を散歩しているのだが、昼間も街中うろついていたので
これといって眼を惹くものはない。
そのまま駅へと歩いていった。
適当に離れたところで、でもあまり遠くない微妙な位置にある駅までの切符を買いホームで待つ。
ホームには俺1人だけで―――
そこには静寂だけがあって―――
それは俺にそろそろはっきりと答えを出せと言っている―――
そんな気がした―――
そのまま数分待っていると、汽車がホームに入ってきた。
汽車の中はほとんど誰もいなかった。
近くの席に座る。
駅員が発車合図の笛を鳴らすとゴトンと汽車が走り出した。
何も言わず窓の外を眺める。
最初は街の建物や明かりが見えたが、しばらくすると真っ暗になった。
「そういえば…あの時もこんなだったっけ」
俺が出ていったあの日。
近くの駅には警備がいると思って1つ離れた駅まで歩いていき、そこから汽車に乗った。
ただ、当時は"感染者"が汽車に乗れるはずもなく、家畜の乗っている車両に潜り込んだのだが。
それでもそこから見た外の風景と今見ている外の風景は何ら変わりはなかった。
ただ真っ暗。
なのに当時の俺にはそれが眩しく思えた。
冗談でも何でもなく本当にそう思えた。
自分は今外の世界を実感しているんだと思うと、うれしくてしょうがなかった。
「思えばそんなこと感じる時期があったんだよなぁ」
軽いため息がこぼれる。
今ではこの風景はただ真っ暗でしかない。
それは俺が成長した証であると共に俺が昔のような心を無くした証でもあるのだろう。
つまり俺は昔ほどバカでなくなったということだ。
やはり……そろそろケジメをつけるべきなのかもしれない。
「どうしたらいいのかって……眠ぃ〜」
満腹と汽車の揺れが相乗効果をもたらし、俺をめくるめく眠りの世界へと誘う。
抵抗してみたものの、そんなものは無駄であった―――
これは夢だ。
そう瞬時に理解した。
なぜなら俺の眼の前に走っている俺がいるからだ。
最近になって昔の夢をよく見るが何かの暗示なのだろうか?
夢の中の俺は、出ていって間もない頃の俺だった。
逃げるように走っている―――
いや、実際逃げているのだ夢の中の俺は
だが途中で足がもつれて転ぶ。
そこに追いかけていた男たち6人が追いつく。
「お前みたいなのが俺たちの街に入ろうなんてふざけやがって!!」
「そうだ! この化け物!!」
「どうする? 警察機構か軍を呼ぶか?」
「かまわねぇ、殺っちまえ!!」
それを合図に男たちは手にした棒で俺を殴りだす。
体中どこでも、とにかく殴りつけた。
しばらく殴り続け意識が無くなる寸前、男たちは去っていった。
去り際に何か言っていたが聞こえなかった。
夢の俺が聞こえなかったからだろうか。
そのまま倒れている俺はでも決して泣きはしなかった。
訓練でこれくらいは慣れていたというのもあるが、単に泣くという行為自体思いつかなかっただけだ。
そんな俺を見て俺はふと少し前の仕事の時に言われた台詞を思い出した。
『カリムさんが外の世界に出たことにはきっと意味があるんですよ』
それが本当かどうか知るところではないが、世界を知るという意味では確かにそうなのだろう。
だが……
だとしたら
俺が"感染者"になったということに―――――
そのことに何か意味はあるのだろうか?
……夢とは本当にあらゆる意味で都合がいい。
俺の意識はそこで光に包まれた。
眼が覚める。
ちょうど日の出の風景が見えた。
それを見ていると何だか晴れやかな気分になった。
そしてタイミングのいいことに次が俺の降りる駅だった。
頭を完全に起こすために汽車の中を立って歩き回る。
そうしてだんだん意識がクリアになった時に駅に到着した。
汽車を降りる。
背伸びをしながら駅を出てどうしようか考えながら歩く。
逃亡生活2日目の始まりである―――
だが…どうせ今日あたりで決着はつくだろう。
そしてその考えを確信させるかのように
前方にソイツの姿を見つける。
オーティス=アハンティアの姿を。
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