何かがおかしい。
眼の前の動けるハズのない男を見ているにつれそう思う。
そしてその疑問はすぐに形となった。
「情け容赦なしかよ…おっかないね」
すぐさま後ろを振り向く。
そこには確かに
体のあちこちを吹き飛ばしたハズの男が―――
まるで何事もなかったかのように
怪我1つ無い姿で立っていた。
もう1度振り返り、岩のあった方を見る。
そこには吹き飛ばされた岩しかなかった―――――
「でもいくらなんでも今のはヒドイな。危うく君を殺すとこだった」
「いったいどんな手品を使った?」
「アハハ。手品師が手品のタネを明かすなんてことするわけないだろう?」
もっともであるが、じゃあ今のは何だった?
幻?
―――――――ではない。
では魔法?
―――――――それも違う。
いくつもの考えが浮かんでくるが、そのどれもが否定できてしまう。
つまり奴は常識には無い能力を有することになる。
勝ち目はあるだろうか?
「さて、今のはしっかりと口から返事を聞かされたワケじゃないから殺さなかったけど……
そろそろ返事聞かせてもらえるかい?」
―――――――関係ない。
「俺の敵は誰であろうと排除する」
「………交渉決裂か………残念だ」
呟くと同時――男の殺気がこちらに注がれる。
「死ね」
男がこちらに向かい走り出す。
トシュテンナーのマガジンを交換し、まず男の両足を撃ち抜く。
今装填されている弾丸は通常弾だが、相手にどんな能力があるかわからないうちは迂闊に特殊弾は使えない。
足を撃たれた男はバランスを崩し、倒れる。
手をかざす。
眼の前に魔法の陣が描かれ、男が地面に倒れる前にその場所に雷が落ちる。
そのまま後ろに後ずさり岩に背を預ける。
そのまま待つとやはり無傷の男が山道の方から姿を見せる。
「山道に入り込まなかったか…」
「誰が人を殺すのにピッタリの場所に入り込むか」
「そりゃそうだ。むしろ君がそれくらいできる人物で俺はうれしいよ」
「そうか。しかし…俺が魔法を使うのには驚かないんだな」
「……それほど脅威なものでないからね、俺にとっては」
「なら、これでどうだ」
手をかざすと、男の周辺に風の渦が発生し切り刻む。
あちこちから鮮血をふき出す男はそれでも笑っている。
かまわず心臓に銃弾を撃ち込む。
笑った顔のまま―――――
男はドサリと地面に倒れた。
1分そのまま待ったが動かないので生死を確認しようと歩きだす。
ドスッという音が聞こえた。
腹を見るとナイフが突き出ている。
着ている服がどんどん赤く染まっていく。
何が起きたのか確認しようとした時背後から気配がした。
まさか――――――――
「だから言っただろ? 魔法なんて脅威ではないって」
背後にはやはり無傷な男がいた。
ズズッという音と共にナイフが引き抜かれる。
ああ、背中から刺されたのか―――と他人事のように理解する。
そして手をかざす。
陣が現れ、自身を中心として爆発が起きた。
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この相手が仕事のためにあらゆる手を使ってでも敵を殺す男だと言うのは理解できた。
だが自身をも巻き込んで敵を殺そうとするというのは予想外だった。
あと若干反応が遅れていたら危険だっただろう。
眼の前で血を流しながら全身に火傷を負っている相手を見下ろし、そう思う。
だがこちらは忠告したハズだ――――
「魔法なんてのは脅威ではないんだよ」
聞こえていないだろう相手に呟き、そのまま山道を下りる。
あのまま放っておけば勝手に死ぬだろう、俺が手を下すまでもない。
「さて…邪魔者はいなくなったからな、後は探すだけだ」
もっともそれが簡単ではないのだが…やらねばいけないのだからしょうがない。
だが、カリム=ウォーレンが自宅にいなかったのは計算外だ。
仲間に居場所を探らせるか?
だがそうすると時間がかかる。
「…しかたねぇ」
進めていた足を止める。
同時に体が地面の中に沈んでいく。
ゆっくりと沈んで、でもすぐに全身が沈みきった。
感覚を張り巡らせる。
この方法でも時間がかかるし、詳しくは調べられないがそれでも断然早い。
と言っても半日以上はかかるかもしれない。
できるだけ近くにいてくれよと願いつつさらに感覚を張り巡らせる。
その感覚は体を突き抜け
ありとあらゆるところに広がり
やがてこの山道から下にある街まで広がった。
どうやらこの街にはいないらしい。
大雑把だがそう判断すると、さらに感覚を広める。
近くの街まで広がるまでは距離的に考えて夜になるだろう。
その間、しばらく眠りにつくことにした。
もっとも――――――
今の俺が俺というものを持っているのかは疑問ではあるが。
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