「しかし…どうしたもんかな、本当に」

 屋台でワッフルを買ってぶらぶらと街をうろつく。
 早くて今日中、遅くても明日にはアイツなら追いつくだろう。
 それでもアイツ相手には結構な時間稼ぎになる。
 だが明日の朝までにはこの街を出る方がいい。
 そうすると、宿に泊まるわけにもいかないから街をうろつくしかない。
 そう…つまりはなのである。
 逃げる立場の人間の言う台詞でないのは理解しているが暇なものはしょうがない。

「しかたない…散歩でもして何かうまいもんでも食おう」

 肝心なのは夜からだしそれまではのんびりでもいいわな。

◇◇------------------------------------------------------------------◇◇

 山道を登る。
 この街に来てからカリムのことを聞いたらすぐに居所がわかった。
 だが話を聞いた全員が必ずと言っていいくらい

ああ、アルバイトの兄ちゃんね

 と答えたのが気になるが、奴のことなど気にしても仕方ない。
 さっさと用件を済ますまでだ。

 山道を登りきったところに奴が住んでいるとされる家がある。
 ドアをノックしようと思ったがやめて、蹴り破った。
 中に入り気配を探る。
 そのまま数分待ってみたが変化は無い。

「既に逃げたか…」

 念のため全て見てみたが、やはりいないようだった。
 逃げたとしたら昨日のうちか? それとも…
 その時ふと台所にあったコップが眼についた。
 正確には洗って拭かれた跡のあるコップに。
 それを拭いたと思われるタオルに触れる。
 それはどう考えても


 ――――――今日濡れたものとしか思えなかった。


「ちっ…!」

 我ながら珍しく舌打ちをして、走り出す。
 知らないうちに奴を見逃したらしい―――――――不覚だ。
 奴の家を飛び出して山道に入る


 ――――――その直前


 体が意識とは別に動いた。


 手に持っていた銃『トシュテンナー』を標準に合わせ引き金を引く。
 打ち出された弾丸は近くにあった岩に当たる。

 この『トシュテンナー』はショットガン並みの大きさで扱いづらい反面
 弾丸の種類が豊富だ。
 今これにセットされているのは"爆裂弾"という着弾と同時に爆発する弾丸で
爆発の規模は小さいが紙一重で回避すれば爆発をくらうという代物だ。

 岩が爆発で半分吹き飛んだ。
 その岩の裏から1人の男が姿を見せる。
 男は怒るだとか驚いただとかの表情は見せず、ただ笑っていた。


特にどうと言うでもない普通の殺人者。


緑色の眼を持っている以外は俺と何ら変わらない、仕事のために人を殺せる殺人者。


 それを全身で感じ取った。
 男が口を開く。

「気配を消していたのは謝るが、ちと派手にしすぎじゃないか?」

「知るか。だいたい俺と同じ人間は後々のために消しとくに限る」

「俺と君が同じ? ハハハ!! …何を言っているんだい君は。俺と君がどうしたら同じになるんだ?」

「貴様は仕事のために人を殺せる人間だろう」

「そうだな。でもそれじゃあ違うぜ?」

「何?」

俺は別に仕事でなかろうと人を殺せる

 その台詞を聞いて無言で戦闘準備をとる。
 俺の殺気に気がついたのか男は慌てだした。

「ちょ…待てって! 俺は別に害を加えない人間は殺さない。あんたが俺にとって邪魔だったりしない
ならどうもしないって!!」

「では聞くが貴様は何故ここにいる?」

「恐らくあんたと同じ理由さ」

「………カリムに何の用がある」

「ま、一種のスカウトってやつだな。で、次は俺から質問だ…あんたカリム=ウォーレンの追跡を
やめるつもりはあるか?」

「無いと言えば?」

「あんたは俺にとって邪魔者ってことになるな」

「……―――――――だ」

「ん?」

それで上等だ

 最初から戦わないつもりなどなかったのだから。
 瞬時に構えながら引き金を引く。
 男は紙一重で弾丸を避けたが、弾丸は後ろの岩に当たり爆発する。
 その爆発の餌食となって、男の左腕が無くなった。
 反撃の間を与える前に全弾打ち込んだ。
 煙がはれて男の姿が見える。
 そこに立っていたのはもはや男だったもの―――――だった。
 体は全身どこかは吹き飛んでいて、無事なのは顔くらいだ。
 だというのにその男は笑っていた。
 ただ―――――笑っていた。
 奴と同じ緑色の眼を輝かせて……


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