「じゃあ、本当にすいません」
そう言ってセフィたちは帰っていった。
時刻はもう夜だった。
知らずため息がでてくる……どうしたものか。
テレビなんてものを見てることはほぼ皆無だと思うとはいえ、万が一もありえる。
相手が俺の居所を探しだそうと思えば半日以内で見つけるだろう。
となると用心のために何週間かどこかに身を隠す必要がある。
幸いにも金はあるからそれくらい問題ではないだろうが。
「ま…明日の朝にでも考えるとすっか」
ベットに入り、眼を閉じる。
意外にすぐに眠りについた。
俺は派手に吹き飛ばされた。
道場のような建物。
そこの壁に背中を打ちつけ、激しく咳き込んでいる。
だが眼は相手をしっかり捕らえる。
眼の前に立っているのは教室最年長のオーティス=アハンティア。
俺を警戒するまでもないと言わんばかりに余裕な態度だ。
だがそれも当然だろう。
なんたって俺は1度も勝ったことがない。
悔しいが俺はコイツに勝てないと認める。
だが、訓練だからってあからさまに手加減しているのが気にくわなくて何度も勝負を挑んだ。
そのたびにこうして吹き飛ばされた。
呼吸を落ち着かせる前に走り出す。
向こうはただ拳を固めているだけ、構えもとらない。
―――――――どこまでもバカにして!!
最速の速さで近づき、無駄のないモーションで拳を突き出す。
だが次の瞬間には俺はまた吹き飛ばされていた。
「がは……っ!!」
声が漏れる。
そのまま体が動かなくなる。
呼吸も荒い。
でもやはり眼だけはしっかりと相手を捕らえる。
ゆっくり俺のとこまで歩いてきたソイツはあきれたような声で
「せめてもう少しマシになってから来い……何度も同じことを言わせるな」
とだけ言って背を向けた。
その背中に襲いかかろうと思ったが、体が痛みを訴えてきてそれどこではなかった。
あばらが2、3本やられたらしい。
そのまましばらく横になって呼吸を落ち着かせた。
そして我知らず呟いていた
「絶対―――――――本気にさせてやる」
「……う…」
眼が覚める。
見えるのは見慣れた天井。
「また懐かしい夢だな…オイ」
起き上がり適当に着替える。
サイフにカードと少しの現金があるのを確認してポケットに突っ込む。
銃も定位置である腰に入れ、銃弾もあるだけ全部持った。
部屋をでて台所まで行き水を飲む。
「にしても1度も本気にはさせれなかったな…」
コップを置いて呟く。
結局―――俺が出て行くまでに俺は1度もオーティスを本気にさせることができなかった。
アイツはいつでも手加減をして、そして負けを知らなかったのだ。
「って…今はそれどこじゃないよな」
さっさと逃げないといけない。
頭を振って夢を追い出し、家を出る。
街までの山道をしばらく歩いていく
その途中で――――――――人の気配を感じた。
すぐに近くの草むらに身を隠す…もうバレたのか?
やってきた人物を隠れながら観察する。
その人物を見たとき思わず声を出してしまいそうになった。
それは夢で見た人物とまったく同じだった――――
向こうは隠れている俺に気づかずに俺の家へと歩いていった。
足音が聞こえなくなってから、俺はすぐに街へ向かい走り出した。
全力で走ってそのまま街の中も走り抜ける。
そのまま発車寸前の汽車に飛び乗った。
「ハァハァハァ………ハッ」
座席に座り、必死に呼吸を整える。
「まさか…こんなに早いなんて…」
そう早い、早すぎだ…予想では早くても午後からだと思っていたのに。
「それによりにもよって……アイツかよ」
さっき草むらから見た顔を思い出す。
それはまぎれもなくオーティス=アハンティアそのものだった。
夢で見たまんま、何の変わりもなかったソイツだった。
「アイツとなると…厄介だな」
逃げ切れる確率は10%以下だろうな。
胸中で呟きながらもどう逃げるか考えた。
並大抵の相手ならまだしも、アイツとなれば話は別だ。
こちらもかなり本気で逃げないといけない。
――――――――――というわけで
俺は次の駅で降りた。
灯台下暗し…という奴だ。
家に見張りをつけるとしても基本的に追跡は少数なハズだ。
もしかすればオーティス1人ということもありえる。
出て行って4年もたった俺のことを大人数で探しに来るとも思えない。
ともかくそれならわざわざ遠くまで逃げなくてもそれなりに時間を稼げるはずだ。
それまでここで具体的にどうするか考えるとしよう。
そうして俺の逃亡生活が始まった―――――
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