「何?」

 驚いている一瞬の隙をついて、スラケンスに蹴りをいれる。
 9の字に曲がるスラケンスの体。
 そのまま後ろに何歩か下がって距離をとる。

「はは、あんたが平気でもナイフは重力に耐えられなかったようだな」

「そうだな。まぁせっかくだ、俺の能力について詳しく教えてやろう。俺は今能力のことを『同化』と
言ったが正確には違う。どちらかと言えば『錬金術』だな、体の構造を変化させ他の物質と同化する…
それが俺の能力だ」

「なるほど、魔法の直撃を受けても地面と自分の体を同化させて逃げられるってわけだ」

 納得がいく。
 それならば今まで見てきた不思議な光景も全然不思議でなくなる。
 だがそれよりもこっちは出血してるのだし、時間をかけるわけにはいかない。
 能力の正体がわかったうえ、相手は武器もない。

「武器がないから君の勝ちにすることができるとは思わんほうがいいぜ」

 しかけるなら今のうちだ――――――という思考がかき消される。

「だいたい俺は武器を持ち歩く必要なんて無いんだ。自分の体を少し使えば…」

 そう言って手のひらをこちらに向ける。
 そこから――――――

ズズズッ―――ズッ――――――ズズッ―――――

 と気味の悪い音を出しながら手のひらから一振りの剣が現れた。

「ほら、武器のできあがりだ」

「……それじゃあ自分の体が無くなるはずだろうが」

「簡単だ。地面の構造を変化させて俺の体の欠けた部分にすればいい。ちょっとした能力の応用さ」

 剣を構えてニッと笑うスラケンス。
 それに合わせて俺もいつでも動けるように準備する。

「そろそろ……終わらせるぜ?」

「ああ。俺もさっさと帰りたいんでね」

「じゃあ死体は君の家に置いといてやるよ!!」

 スラケンスが駆け出す。

 オーティスに迫った時よりも速く。

 予備の弾丸をありったけ全部投げる――――

「白の契約によりうまれし剣!!」

 無数の光球。

 それらは無数の光の刃へと変化しスラケンスに襲い掛かる。

 スラケンスは無数の光の刃が触れる前に地面に同化して消えた。

 それに合わせて後ろに振り向く。

 そこにはもうスラケンスが現れていて、剣を振り下ろしていた。

 それをかわし、銃を構える。

「無駄だ! まだわからないのか!?」

「無の契約によりうまれし無!!」

 銃はスラケンスの足元の地面に命中する。

 そこから人1人を軽く包み込める光球が出現する。

 いや、光球ではない。

 だってそれは光を発していないのだから。

 だがそれを表現するなら――――やはり光球なのだ。

 そんな不思議な球体。


 だが―――それはすべてを無に帰すもの。


存在意義の消失による絶対不可避の消滅。


 それがあの球体の正体。


 球体が触れた部分が問答無用で消滅し、球体もほどなく消える。

「な―――――――――――」

 穴の開いた地面に落ちていく下半身の無くなったスラケンスが驚いていた。
 その体を狙う。

「べらべら喋りすぎだ。同化する物質が無けりゃ逃げられないだろ」

「てめぇっ……!!」

「――――赤の契約によりうまれし鉄槌!!」

 銃弾は左の腕に命中し、爆発した。
 そのまま左腕も無くなった顔と上半身と右腕だけ残ったスラケンスが穴の底に落ちた。
 それを見ているとスラケンスが顔だけでこちらを見上げた。

「君は殺人者には向いてないね。今のは能力など使わず心臓を撃ち抜くべきだった。せっかく俺を
殺せるチャンスだったのに」

「うるせえな、どうせその体じゃどうしようもないだろうが」

「そでもないぜ、ほら」  そう言うと同時――――

 先ほどの剣が手のひらから現れるのと同じ感覚で体がどんどん生えてきた。

 今爆発で無くなった左腕。

 それから下半身――足へと続き

 少し前の五体満足に戻った。

「このとおり……元通りだ」

 ゆっくりと立ち上がりスラケンスは俺にそう告げた。


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