「ふ〜」

 テーブルに置いてあるコーヒーを飲む。
 ここ数日――――実に平和である。
 壁に取り付けてある魔動映像受信機(平たく言えばテレビ)の映像を眺める。
 いつもはこれを使うことはない、どの一般家庭でもそうだ。
 何故なら新聞の方がよっぽど便利だからだ。
 逆に言えばテレビのチャンネルが2つしかないのと番組が地域によって全然違うからだ。
 そのせいで情報に正確さが無い、よって新聞の方が親しまれている。
 では何で俺はそんなものを眺めているのかというと、事の始まりは1通の手紙だ。
 どこをどうして調べたのか知らないが差出人の名はセフィだった。
 それには彼女らしい感じを受ける字で、"ジックロウサー"の特集があるらしく、おまけに
全国で生放送だからぜひ見てくれという内容が書かれていた。
 それで、さすがに知った人間が映るのなら見てもいいかと思ったワケである。
 もうそろそろだなと思っていたらその番組が始まった。
 しばらく司会の人があれこれ話してから"ジックロウサー"にいるレポーターにいる方に画面が変わる。
 まず建物のアレコレを述べ、次にリーダー……つまりセフィへのインタビューとなった。
 いかにもありそうな質問をやはりのほほんと答えている。
 その後ろで何だか秘書みたいな女の人がこっそりため息をついているのが見えた。

――――――――ああ…きっと苦労してんだな。

 勝手に決めつけながらしばらくその様子を見ているとレポーターがふと質問を変えた。

『そういえばつい先日起きた大森林の異常に関してはセフィさんが直接解決に向かわれたんですよね?』

 何故か冷や汗が出てきた。
 ここで俺は何かとんでもないど忘れをしている気がした、シーラを助け忘れていた以外にも何か大切なことを。
 とりあえずコーヒーを口に含みながら考えた、考えまくった。

 だが、セフィがそれを口にするまでとうとう答えは出てこなかった。

『はい、大変でしたよ〜。でもカリムさんっていう旅の方たちが協力してくださって…あ! カリムさん〜〜
見てくれてますか〜?』

ぶーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!

 口に含んでいたコーヒー全てを出してしまったがそれどころではない。
 そうだった……俺のこと口止めするの忘れてた!!
 テレビでは手を振り続けるセフィと俺について細かく聞こうと質問をしているレポーターが映っているが、
俺は自分の間抜けさを後悔するだけしかできずにいた。


 数十分後―――――


「本当にすいません!」

 眼の前で頭を下げる1人の女の人がいた。

「ああ…もういいですから」

 そんな俺の声はどこか虚ろだった。
 番組が終わると同じくらいでセフィがため息をついていた人といっしょに転移してきたのである。
 で、半泣き状態で立っていた俺を見て何があったのか聞いてきた。
 うまく誤魔化す気力もなかったので、素直に自分は今存在を知られたくない状況なのだと答えると、
こうなっていた。
 必死に謝るため息の人を見てセフィもいっしょに謝ってきた。
 悪いのは間抜けな自分なのにこうまで必死に謝られると逆に辛い。

「あの、本当にもういいですから」

 落ち着いてそう言うと、すまなさそうな顔をしていたがなんとか顔を上げてくれた。
 それでお互い言葉がなくなってしまったので、お茶を出すといって台所に逃げた。
 お茶の準備をしながら――――

 どうせテレビなんてあまり見てないよな、普通。

 と自分らしい楽観的な結論に辿りついた。
それがいかに甘い考えかも知らずに……

◇◇-------------------------------------------------------------------------------◇◇

 昼――――
 ベットで眼を覚ましながらそんなことを考える。
 と、誰かが側に立っているのに気がついた。

「起きてから3秒…まずまずだ」

 声の主である中年の男―――――俺の教室の先生であり"ディスウィリウム"の最高責任者でもある男は
にやりと笑って俺にそう言った。

「何のようです? まさか俺を試しに来ただけではないですよね先生?」

「当たり前だNo:1。私はそんなに暇ではないよ」

先生

 ぴしゃりと告げると先生はしかたない奴だという顔をした。

「まだNoで呼ばれるのが嫌かね? オーティス=アハンティア。だが君がそうだと―――」

「他の者に示しがつかない。ですか?」

 わかっていることを口にする。
 だがそれでも、わかっていてもNoで呼ばれるのは嫌なのである。
 俺は嫌いと認識するものが2つあるがそのうちの1つはこれである。

「ふぅ…まあいい。それよりも緊急の用を頼みたい」

「用? ……依頼ではないんですか?」

「ああ。私的な用だ、ある人物を連れてきてほしい」

「……急ですね」

「しかたない、私も今生きていたのを知ったばかりだ。まさかたまたま見ていた生放送でそれを知るとは
思わなかったがな」

「で、誰なんですか?」

 急かすように聞くと、お前も知っているとその人物の名を告げた。

それは俺が嫌いと認識するもう1つのもの―――――

「装備はランクAを許可する。ある程度の負傷は構わんが殺さず連れて来い、いいな?」

「……………………………了解」

 できるかぎり感情を殺し、そう答えて俺は足早に部屋を出る。
 ああ、まだ生きていたのか――――――"コインの表"

「まったく…どこまでも俺を苛立たせる奴だ」


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