いつからだろうか?
 森の奥の小さな家――――――
そこに私が追いやられて暮らし始めたのはいつだったろうか?
 確実に言えることはこの眼が緑色になった時からだ、ということだ。
 だがそれがいつだったかと言うと―――
生きるために自給自足をしないといけないから野菜などを育てたり
水道や井戸がないから近くの泉から水を汲んでおいたり
いろいろ生きていくために必要なことをして
それらすべてが終われば疲れて眠り
また次の日になる。
 そんな毎日を送っているうちに
それがいつだったかなんてわからなくなってしまった。

 時間がわからない――――――

それがこんなにも不安だなんて

私は身をもってそれを知った。

 だが―――――――
それもしばらくすればどうでもよくなった。
 気にしたってしょうがない。
 どうせ私はここでこれからも暮らし続け
そのままここで朽ち果ててゆくのだから――


 そんなことを考えていた日から何日過ぎただろう?
 1週間?
 1ヶ月?
 それとも1年?
ともかく何も変わらないいつもの毎日――――
 だけどそれは

いきなり方向を変えだした

 朝いつものように散歩をしていた。
 それしか楽しみと呼べるものがないから。
 そして今ではこの森のほとんどを把握している。
 そのとある日はいつもと違う道を散歩した―――
何故かそちらに行かねばならない気がしてならなかった。
 いつもなら引き返す頃になっても歩き続けた。
 本来なら帰るべきなのに
 でも足は引き返してくれなかった
 それが――
そのいつもと違う行動が
自分自身で起こした行動が
たまらなく嬉しく
夢中で歩き続けた。

 歩き、歩き、歩き続けて―――――――
見たことのない場所に出た。
 そこには

1人の老人が立っていた

 いや、老人と言うとそれは違う
 立っている男性はせいぜい50半ばといった感じだった。
 男性は私の姿を見るなり

「私に関わるな娘」

 と言った。
 あえて気にせずに

「人と会うのはずいぶん久しぶりなので迷惑でなければ話し相手になってもらえませんか?」

 と言うと男性は驚いた顔をして

「私が怖くないのか?」

 なんて聞いてきた。
 どう見ても――――
もっとも人を見る眼なんてとうになくなったのかもしれないが
 悪い人に見えなかったので

「怖くないですよ? それと私は娘じゃないですエリナです」

 と言ってやった。
 すると男性はハッハッハッといきなり笑い出し

「いいだろう、しばらく付き合ってやる」

 と言った。


 そして私とその男性とのお喋りでの付き合いが始まった。
 私は男性に自分の生活を話し
 男性は私に私の知らない事を聞かせてくれた
 その急に変わった生活が嬉しく――――
同時に怖くもあった。
 でもやはり嬉しいと思えるうちに思いっきり嬉しいと思いたくて
 一生懸命話し
 一生懸命話を聞いた。
 そしてそれが終わる時がきた。
 話が終わった時、男性が

「この森にしばらくいるが、エリナと会えるのは今日で最後だ」

 と言ってきた。覚悟してはいたが耐えられず「何故?」と聞いた。

「私は本来ならあまり人と関わってはいけないんだ。安心しろ、何かあれば駆けつけてやるから」

 諭すような口調でそう言われ私はうなずいてしまった。
 男性はそれに満足したようで森の奥へと消えていった。
 消えてしまう直前―――――

「我が名はオピリオス=ガル=ネファルバー。我を呼ぶ時はオピリオスと呼べ。そうすればお前は
始祖魔法使いの助けを得られる」

 と確かに聞こえた。
 正直なところ始祖魔法使いなどどうでもよかったが
 はじめて呼べる名前を知って――――
私はただそれだけがうれしかった。


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