「あはは〜お騒がせしてすいません〜」
「いえ気にしないでください。賑やかな方が嬉しいですから」
「そうですか〜? よかったです〜」
4人に増えたお茶の席でエリナとセフィがのほほんと会話している。
やはり女同士というのは話がしやすいのだろう。
ひとしきり話してからエリナが嬉しそうに語った。
「こんなに喋れて本当に嬉しいです」
「いままで1人でずっとこんなところに住んでたんですか〜?」
「ええ。少し前にも話し相手になってくれた人がいたんですけど、その時と同じくらい嬉しいです」
「話し相手って?」
2人の会話に割ってはいるつもりはなかったが、なんとなく気になって聞いてみた。
「えっと…名前は確かオピリオス…え〜と―――」
「オピリオス=ガル=ネファルバー…始祖魔法使い……ですか?」
さっきまでのポケポケした口調ではなく真面目な口調。
さすがにエリナも不思議な感じを受けたらしい。
「そうです…けど。お知り合い…なんですか?」
「私は彼を探しにここに来たんです」
瞬間――
エリナがセフィを警戒するような眼で見た。
「見つけてどうするんですか?」
ゆっくりとエリナが尋ねる。
思わず俺もセフィの答えを待ってしまった。
「殺すことになりますかね〜」
先ほどの口調に戻るセフィ。
でも言っている台詞は穏やかなものではない。
エリナはサッと顔を青くさせている―――――
始祖魔法使いとエリナがどういう関係か詳しいことは知らないが、エリナにとっては大切な人なのかもしれない。
「殺すことになるような何かをしたのか? その始祖魔法使いは」
口を開けないでいるエリナの代わりにセフィに質問する。
セフィはう〜んと考える仕草をしてみせてから、口を開いた。
「別に殺し合いに来たわけではなくて〜、ある品を返してもらいたいんですよ〜」
「ある品?」
「はい〜、代々"ジックロウサー"のリーダーが受け継ぐ魔具なんですけど〜。前代のリーダーが
オピリオスさんを捕縛しようとした時返り討ちにあって〜、魔具を盗られちゃったんですよ〜。私は
別にそんなのなくてもいいんですが〜、前代のリーダーに取り返してみせますって約束しちゃったから
しかたなく〜」
「じゃあ向こうが大人しく魔具を返せば他には何もしないんだな?」
「そうです〜」
その台詞にやっとエリナの顔が穏やかになった。
と、それまでお茶を飲んで俺たちの話を聞いていたデニスが話しかけてきた。
「それはそうとカリム。村の連中についてはどうする?」
「ああ…」
すっかり忘れてたが、村の連中が俺たちごとエリナを殺そうとするならそろそろ来る頃だ。
「ま、どうにかなるだろ。どうせ戦闘訓練もしてねえ奴ばっかだろうし」
「ふむ。ではこの家を囲んでいる連中は村の人間ではないのか?」
「っ!?」
素早く窓の側に近寄りそっと外を見た。
デニスの言ったとおり何人かの人間が武装して待ち構えている。
「いつの間に…気配なんて感じなかったぞ?」
「森での活動で肝心なのはいかに気配を消すかということだろう。で、どうする?」
「もちろん、迎え撃つだけだ。セフィ、エリナを頼む」
そう言い残して外に出る。
途端、問答無用で村の連中が襲い掛かってくる。
が、所詮は素人。
いくら気配を消すのがうまくても戦闘になればたいしたことはない。
銃を使わずとも素手で充分だ。
眼の前の男がナイフを構えて突進してくる。
突き出されるナイフを半身だけずらしてかわし、すれ違いざま拳を叩き込む。
拳は相手の腹に突き刺さすようにめり込み、その反動で引き抜かれる。
そのまま顔を真っ青にし咳き込む男の膝に蹴りをいれ、砕く。
醜い悲鳴を上げて転がっている男から視線をそらし、周りを見る。
周りには数人、何らかの武装をしたものが立っているが今の光景を見て怯えたらしい。
立ちすくんだまま、こちらを見ているだけだった。
―――――――?
何か妙な感じを受けた。
こちらに恐怖したにしては余裕ありげな表情の村人。
樹で太陽が隠れていてよく表情が見えるわけでは――――――――
樹。
何故かそこに引っかかりを覚えた。
エリナの家の方を見る。
そこには―――
樹の上から家に向かい下りてきている村人の姿が見えた。
しまった…!!
「デニスッ!!!」
近くで俺と同じような状況に立っていたデニスに叫ぶ。
デニスもすぐに気がついたようだった。
「邪魔だっ!!!」
俺の道を塞ごうと前に立ちはだかった3人の村人の間をすり抜け走り出す。
だが既に何人かは家の中に入っていた。
セフィも魔法使いとはいえ、家の中で簡単に魔法を使うとは思えない
――――狭すぎて自分にもダメージがでるかもしれないから。
「きゃあああああああああああああっ!!!!!」
悲鳴
エリナの悲鳴。
それはもう間に合わないと俺に教えるもの
自分がいかにバカで無力か教えるもの
それでも……それでも走った。
だが――――――
「ぎゃあああああああああああおうぶううううううっ!!!!」
男の絶叫で思わず足が止まった。
俺の近くまで走ってきたデニスもピタリと止まった。
俺の位置から家の中が見えた。
結論から言うと、エリナは死んでいなかった。もちろんセフィもだ。
そこから見えたのは血まみれの男の集団。
それに絡みついている樹の根。
いや、絡みつくではなく絞め殺すと言った方が自然だ。
そしてその樹の根はまるで家の壁から生えているように見えた。
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