俺たちがボーッと遠くのおっさんを眺めていると、こちらに転移してきた。
 エリナもどうやら無事らしい。
 森はといえば元通りに再生こそしたが、異常成長などの現象は起こらないでいる。
 きっとエリナの精神状態が安定したので、能力が使われなくなったのだろう。

「燃えろ」

 呟くように、でもしっかりとおっさんが唱えるとデニスの全身が火で包まれた。

「うわっ!?」

「燃えてますね〜」

「え…ええっ!!」

 上から順に俺、セフィ、エリナの台詞だ。
 3人ともそれぞれ驚いている中おっさんはどこか怒った顔で告げる。

じじいと呼ぶな

 あー…なるほどね〜、まぁしかたないわな…燃えててくれ。
 1人納得してセフィとエリナを見ると、2人もそれとなく納得しているようだった。
 というわけでデニスはひたすら燃えていた。


―――――――――――――――――――と


 そんな出来事があったわけだが事態は無事収拾がついたわけだ。
 あれからいろいろ話し合ってセフィがエリナを保護することになった。
 魔法の制御方法がエリナの能力の制御に役立つかもしれないというのが大きな理由だ。
(それならおっさんの方でもいいのでは? という話にもなったが、本人が断った)

「ではそろそろ行きますね〜」

 時刻は昼過ぎと夕刻の中間に位置している。
 セフィとエリナが少し距離をとる。

「あの……オピリオスさん……」

 エリナが少し俯いて寂しそうな声を出す。
 おっさんは肩をすくめるとエリナに近づき、ポンと頭の上に手をのせた。

「ともかくちゃんと能力を制御できるようになれ、いいな?」

「…はい」

「……呼べばすぐに会いに行ってやる…いいな?」

 エリナがパッと顔を上げる。
 そしておもいっきりの笑顔で――

「はいっ!!」

 と言った。

「じゃあ俺たちも解散だな、おっさん」

 2人が転移したのを見届けておっさんに話しかける。
 おっさんはそうだな、と頷いた。

「まぁ小僧のおかげで助かった。だがそういえば何故お前はこんなとこに来ていたんだ?」

―――――――――――――――そういえばっ!!

報酬ーーーーーーーーーーーーっ!!!

 どどどどうなるんだ!? これって村の奴の依頼だろ?
 肝心の依頼人は死んでるし、村人の残りの人も逃げちまっただろうし……
ここれは――――――――


 もしかしなくても


収入ゼロでトータル赤字ってことですか?

「つまり村の奴から何らかの…エリナ絡みの依頼を受けていたということか?」

 無言で頷く。

「だが村の奴は死んでしまったため報酬はナシ…と?」

 再度無言で頷く。

「ではこれをやろう」

 半ば廃人になりつつある俺に何かの袋が渡される。
 中身を見て、開いた口が塞がらなかった。

「何だよこの凄い額の金は…」

 中に入っていたのは俺みたいなハンパな仕事では到底稼げないくらいの金だった。
 さすがにこんなにも貰えないから返そうとしたが

「私には必要ないし、手伝ってくれた報酬だ。それなら文句はあるまい?」

 と言われてしまい、素直に受けとることにした。

「では私も行くとする」

「その前に1つ聞いていいか?」

「何だ?」

「あんたエリナを助ける理由を聞いた時に自分のことを理想を求めて愚かな者になった…
って言ってたけどそれって結局何なんだ?」

 おっさんに聞く暇が無かったことを聞いておこうと思って聞いたのだが、
 どうにもタブーな話だったらしい……おっさんは黙り込んでしまった。

「あ、言いたくないならいいんだけどさ。誰だってそういうことあるだろうし」

「すまんな。ただ1つ言えるとするなら私は永遠を求めてしまったということだ。
後は調べようと思えば調べられる。ではさらばだ―――――――翔べ」

 そうしておっさんも転移してしまった。
 まぁ報酬は予想外な感じで予想外な金額が手に入ったし―――

「帰るか」

「そうだな」

 といきなりデニスが加わる。
 こいつは別に気絶してたわけでも、瀕死状態だったわけでもない。
 おっさんに燃やされたダメージは全然なく、立派な小麦色の肌になっていた。
 ここまでくるともはやお手上げ同然のバカであるが、あえて誰もつっこみはしなかった。
 馬車のあるところまで歩いて、最初ここにきた時に見た道のど真ん中に立つ4、5本の樹を見た。
 最初は何でこんなとこに樹が? と疑問だったけど今思えばエリナの能力の関係だったのだろう。

「エリナが心配か?」

 樹を見てボーッとしていたからかデニスが聞いてきた。

「うまく能力が制御できて楽しく暮らせるといいなぁ…って思っただけだ」

 照れながら答えて運転席に座る。
 デニスは特に何も言わずに俺の隣に座った。
 そのまま馬車を走らせる。
 しばらく進んでデニスがふと呟いた

「エリナはきっと大丈夫だろう。弱いが強い」

 そんな矛盾しているような呟きにその通りだなと思ったら、口だけ笑ってしまっていた。
 きっとエリナは大丈夫だろう。
 だって―――――
もう1人ではないのだから。


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