「黒の契約により――――」

 上に放り投げた銃弾を見て唱える。
 ふと、銃弾が消えた。
 エリナが森の各地へと魔法で転移させたのだ。
 それにはかまわず続きを唱える。

「うまれし鉄球っ!!」

 各地に転移された銃弾は、以前リッチーが攻撃する時に出した黒球と同じようなものへと変化した。
 そしてそれを森が認知し襲い掛かる。
 樹の枝がどんどん伸びていき黒球に触れる、ただそれだけ―――

それだけの行為。

 だがそれが始まりだった。
 黒球に触れた枝はそのままそれに飲み込まれていく。
 そして飲み込みながら黒球は比例して大きくなっていく。
 その行為は止まらない。
 やがて黒球は空に浮いている俺たちからでもでかいと思えるほどの大きさになった。
 そしてその黒球はまるで風船が弾けて割れるのと同じ感じで、でも音もなく消える。
 その時に生じた衝撃の波。
 森にまだまだ存在する樹を通り過ぎるその衝撃の波。
 あちこちで起きた衝撃の波は最終的に森全域を通り過ぎた。
 そして変化―――
黒球が消えた位置を中心点としてあちこちで森が自崩し始める。
 まるで緑の色の紙の上に白の絵の具を塗り広げるかのような風景。
 だがそれは現実で起きていることで、もう森というものは無くなっていた。


それが2段階で構成された作戦のうちの1段階


 もっとも次の段階は特別何をするわけでもなく、エリナを助けるだけだ。
 俺はエリナは空にやって来ると予測している。
 もちろんそう予測する理由もある。
 それはセフィが言っていたどこか別の場所へ転移させるということだ。
 つまり――――エリナを安全な場所へと逃がすということだ。
 では森のほぼ全てが消されるという事態になった場合はどこに転移されるのか?
 ここで選択肢は2つでてくる。
 どこか近い位置の地上か―――――――空だ。
 だけど地上の場合は転移した先にエリナの敵となる存在がいた時に復活が間に合わない可能性がある。
 だが空の場合はエリナが地面に落ちてきてもそれまでに復活が充分できているだろうし、
敵が俺たちみたいに空に浮いていない限りは事実上安全だ。
 だからエリナは空に転移される可能性が高いのではないかと予測したのだ。
 だがいかんせん空は広い。
 自崩し終わってすぐに辺りを見回してみるがエリナらしい人影は見えない。
 地面に転移されているのならそれはそれで問題ないのだが、空に転移されていた場合は話は別だ。
 早く見つけなければ身の安全はともかく大空からのダイブで精神的に大変なことになるかもしれない。

「セフィ見つかったか!?」

「見つかりません〜」

 おっさんを見る。
 どうやらおっさんもまだ見つかってないらしい、あちこち忙しく見回している。

じじい! あそこだっ!!

 声の主はさっきまで直立不動で寝ていたデニスだった。
 デニスの指差す方を見ると確かに人影らしきものが落ちているのが見えた。

「翔べっ!!」

 それを見たおっさんは大声で呪文を唱えて、消えた。
 一瞬後、人影の落下が止まった。
 それを見て俺はようやく安堵の息をついた。


◇◇---------------------------------------------------------------------------------◇◇


 眼を開ける。
 だけど何も見えない、真っ暗だ。
 だというのに私…エリナという人間は怖いと思わなかった。
 何故なら自分は守られているのだと知っているから。
 自分が友達と呼んだそれが私を守り私の為に戦っているのだと知っているから、真っ暗でも怖くはなかった。

「――――――え?」

 さっき爆発音が途絶えたきり何もなかった状況に変化がおきた。
 もの凄い衝撃を受けたかと思えば、森が一気に崩れていった。
 まるで自分の感覚のようで、だけど痛みなどはない不思議な感じだが、とにかく何が起きたかはわかった。
 だけどそれを認識できた瞬間眼の前が急に眩しくなった。
 すぐに眼が慣れ辺りを見る。
 そこは誰がどう見ても空だった。
 私の体は地面へと落ちていく。
 そんな状況の私に冷静さなどあるはずもなく、頭の中は真っ白で何も考えれなくなっている。
 たとえこれが私を助けるためだとはいえ、今私は1人だ。
 それは私には恐怖だ。
 助けてほしい、でも誰に助けを求めるの?
 そう思うと涙が出てきた。
 泣いたまま落ちていく。
 そしてその途中
 突然――――
本当に突然に――――

 私は呼べる名前があったのを思い出した。

「オピリオスさん……!!」

 泣き声の呟き。
 すると誰かに受け止められた。
 そこにいたのは、たった今名前を呼んだ人物だった。

「本当に…来てくれた……」

 知らず呟いた。
 すると眼の前の人物はさも当然のように

「名前を呼べば来てやるといっただろう」

 と言い、付け加えるように

「お前の他の友達も手伝ってくれた」

 と後ろの方角を指し示した。
 遠くてよくわからないが、カリムさん達だというのはすぐわかった。
 ああ―――――私は、友達と呼べる人が、できていたんだ。
 その今までの生活に慣れて麻痺してすぐに気がつけなかったことが理解できた私は


いつの間にかうれしくて泣いていた―――


NEXT
TOPへ