「まさか生きてたとはなぁ」

 のんきそうなアルの声。デニスには席を外してもらっている、といっても教会の外には出れないから
ある程度の会話は聞かれるだろうけど。
 まぁ、気持ちの問題だ。

「その……悪い」

「ま、いいさ。それよりも…だ」

 急に真面目になる口調。アルが次に何を言おうとしているのか、考えるまでもなく想像できる。

「なぜ連絡の1つよこさなかった? 俺たちにじゃない。ファムちゃんに、だ」

「それは…」

「お前が出て行った後ファムちゃんは1週間飲まず、食わず、眠らずで1日に3回は平気で倒れてた
んだぞ。今でこそ落ち着いたけど……お前が帰るのを待ってるぞ。ずっと」

「……悪いとは思ってるし、気にしてはいた…けど」

 やっぱり怖かったんだ。連絡するのは、と。
 そう言うよりも早く。

「ならいいや」

 ………………一瞬耳を疑った。昨日とことんまでいってやるなんて考えてたからもっと
責められたりするのだとばかり思ってたのに、聞こえたのは先ほどののんきな口調のそんな台詞だった。

「どした? そんな不思議そうな顔して」

「いや…本当にいいのか? ちゃんと聞かなくて」

「そりゃあ、いろいろ聞きたいさ。でもお前はさ、ファムちゃん泣かせたことを忘れてなくて、それでも
連絡しなかった。てことは内心覚悟はしてたわけだ。なら無理に聞かないよ、安心しろ」

 正直なところこんなんでいいのか? と呆気にとられたが…アルの気遣いがうれしかった。

「それにお互いのんびり話し込むわけにはいかないだろ?」

「……それもそだな」

 デニスを呼んでとりあえず話し合いだ。

--------------------こちらの事情を説明中-------------------

「というわけ」

「ナルホド。つまりトレハン協会の仕事でここにあるお宝を回収に来たと、んでカリムはその手伝い」

「ああ、そういうことになる」

 とりあえず椅子や机をどけて場所を確保し、火をおこしてそれを囲んで話していた。

「んでその協会の方、名前は? 俺はアルゲス=クイスェッター。アルとかクイスって呼んでくれればいい」

「デニス=ヴァンテバスだ。デニスでいい」

 2人がよろしくと握手したのを見て、アルに尋ねた。

「アルは何でこんなとこにいるんだ? 外のゾンビと何か関係が?」

「ああ。今この辺では"ゴースト化現象"が起きてて、俺はそれを解決するために派遣されたんだ」

 "ゴースト化現象"
 自然の魔力が原因で死体がゾンビになることを"ゾンビ化現象"というのに対し
 強力な魔力を持った人や物が原因でゾンビになることをそう呼ぶ。
 二つの現象の違いとしては"ゾンビ化現象"は発生したゾンビをすべて倒さねばならないが
"ゴースト化現象"は原因となる人や物さえ破壊すればよいといったとこだ。

「原因になってるのが何なのかわかってるのか?」

「詳しくは知らないが、資料によれば城の王室から反応があるらしい」

「やっかいだなぁ」

「まったくだ。だからさ…協力しないか?」

「「 ? 」」

 俺とデニスはいっしょに首をかしげて疑問符をうかべる。

「だからぁ、2人が"ゴースト化現象"の原因の破壊を手伝ってくれるかわるに、俺がお宝探すの手伝う
ってこと。城の見取り図があるからさ少しは探しやすくなるだろうし。どう?」

「俺は別にいいけど、デニス。オマエは?」

「人手が多くて困る事はない。それにゾンビの群れの中で探し物は辛いだろうからな、いいぞ」

「うし、決まり〜っと。本当はゾンビの数が多くて困ってたんだ。助かった〜」

「あ! でも…」

 ふと思い出したのだが、アルって仕事の報告書とか書くんじゃあ…?
 だとしたらマズイじゃん!!

「ん…ああっ! 安心しろよカリム。報告書には名前書かないでおくからさっ」

「…ふぅ、ヨカッタ」

「でもだなぁ」

 そう言ってアルは俺に近づき小声で尋ねた。


「ファムちゃんにお前が生きてたのは言っとくぞ?」


 とりあえず無言で頷いておく。それぐらいは言っとかないとな、うん。

「よし、じゃ今日はする事ないし寝るなり好きにしよう」

「待て、1つ聞きたいことがある」

 デニス?  自分からそういうこと言うなんて珍しい。どうしたんだ?

「ちょうどいい、俺も聞きたいことがあったんだ」

 アルまで? いったい何だってんだ?

「その額当てはサゲジのスクレイルモデルか?」
「その額当て、クジュエバンのカルテイト仕様か?」

 …………………………あ〜
 デニスを見る。赤く光る額当て。
 アルを見る。黒く光る額当て。

額当てマニアコンビ結成?

「なあ、おい……」

 って、うっわ! もう2人で世界を形成してるっ!?
 駄目だ……ほっとこう。しばらく寝るか、昨日の火の番であんま寝てないし。
 薄い毛布をかぶり横になって眼を閉じる。
 どうでもいい知識が睡眠学習されそうで不安だが、そのまま眠った。


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