崩壊したテントの下からデニスを引きずり出すのもメンドイので、そのまま夜明け前くらいまで
火の番をして夜明け前にデニスを起こし、後始末をして出発した。
 途中「なぜテントが壊れていたのだ?」などとデニスが呟いていたが、3時間程歩いて目的地まで
問題もなくたどり着いた。

「ここか?」

「そのはずだ」

 目の前にあるのはボロボロになった門の跡。見れば中にある建物もすべてどこかは壊れている。
 頑丈なとこに隠してなければ宝もアウトだろう。後で取りに来るつもりでいたんだろうから、さぞ
いい隠し場所にでも隠したんだろうけど。

「これでは宝を回収するのも難しいだろう」

「だからって引き返せるかよ…行こうぜ」

 もはや門とはよべない門を通り、中に入る。小国とはいえ城下町だ、あんな事件さえなければ人で
溢れていただろう。やるせない気持ちで中央の広場らしきとこまで歩いてふと足を止めた。墓だ。
 数え切れない数の墓。恐らくモンスターの群れを退治したやつらが作ったのだろう、木でできた簡単
なものだった。だが俺たちが足を止めたのは別の理由だ。

「穴?」

 自分で口に出してみても実感がない。
 墓という墓……すべてに掘られたような穴があった。
 デニスは驚いたふうでもなく手近な穴のちかくでしゃがみこんで調べている。

「……信じられんが、この穴は中から掘られたものだ」

は? 何を言ってるんだコイツは。それじゃまるで…

「死体が出てきたみたいな言い方じゃねえか」

「俺はそうだと言っている。理由もあるが、覚えても使わん知識などい…」

 デニスが言葉を止める。だが俺は既に警戒態勢になっていた。
 周囲360度から注がれるあやふやでそれでいてはっきりとした殺意のこもった視線に対して。
 だが実際起きた出来事はといえば俺たちの予想を見事に裏切ってくれた。
 俺もデニスも間違いなく360度くまなく警戒していた。だがそれは横の360度。縦の360度は
 まったくと言っていいくらいに警戒していなかった。というよりもっと早く気づくべきだった。

 敵は

      地面からやってきた

「くっ!」

 地面から伸びてきた腕に足をつかまれた。もの凄い力でつかまれていて振りほどけない。即座に銃を腰
から引き抜き腕に撃ち込み少し力が緩んだ隙に足を引き抜く。
 だがその時には建物の影に潜んでいたであろう視線の正体が俺たちを囲んでいた。
 大人から子供、男も女もバラバラないろんな人間。であった者たち。
 腐りかけの皮膚は土色。中には眼が片方腐り落ちたのから体のどこか一部が欠けているのまでいた。
 もはや考えるまでもない。敵は『ゾンビ』だ。
 と、手前にいたゾンビが襲い掛かってきた。知能がほとんど無いだけあり行動はひどく避けやすいもの
だ。軽くかわし背中に蹴りをいれる。ぐにゃりとした感触、手ごたえが無い。
 『銃魔法』を使えば楽なのだがこの墓の様子では、この街の人間全員がゾンビと思っていいだろう。
さすがにそこまでは弾薬がない。

「カリムッ!!」

 デニスの声。見れば持っていた漆黒の大剣で襲ってきたゾンビを頭から股にかけて一刀両断していた。
 アイツの言いたい事はわかる。俺も言おうとしていた。

「「三十六計逃げるにしかず」」

 ザッと見て数の少ない部分を突き抜ける。
 俺たちが完全に通り抜けた後、遅れた反応をしたゾンビが追いかけて来た。……遅い。
 これなら追いつかれる事はないだろう。にしてもっ!!

「どういうことだぁ! デニスーーーー!! こんなの聞いてないぞ!!!」

「走りながら喋るな。舌を噛むぞ」

「んな事言ってる場合かっ!!」

「わかっている! だが俺にもわからん! 何も聞いてないんだっ!!」

 怒鳴りながらとにかく走った。だが、逃げる間に追ってくるゾンビの数はどんどん増えていく。
 このままでは究極の鬼ごっこになってしまう。だがあの数に対抗する手段も無い。

「カリム! あそこだ!!」

 デニスが前方にある建物を指差す。だがタイミングよく前方にゾンビの集団が現れる…挟み撃ちだ。

「後ろのを足止めするっ!! 前を少し頼む!!」

「わかった」

 走っていた足を止め振り返る。少し離れた所から走ってくるゾンビの群れ。
 少しは休ませろっての

「黄の契約をかわせし増加の使命を受けし兵よ! 行けっ!!」

 残弾を左右の建物の壁に撃ち込む。左右から土の槍が突き出る。それを合図とでも言わんばかりに数本
の土の槍が突き出されて壁となった。これで時間は稼げる。
 デニスの方を見れば、もともと数の少ない集団だったが、進行方向にゾンビを切り払っていた。

「デニス! そのまま突っ切るぞ!!」

 無言で頷いてデニスが先に駆け出す。俺もデニスの走った後を駆け出す。心臓が休め休めと訴えてくる
がそれどころではない。途中ゾンビの攻撃を何度かかわして建物に滑り込む。すぐさまデニスが扉を閉じ
鍵をした。あー! もー駄目だ! しばらく動けねぇ!

「ここは…ハァ…ハァ…何の…建物……だぁ?」

「恐らく教会だろう」

「きょう……かい…?」

 言ってから気づく。神父さんのいる方か、トレジャーハンターの協会の方かと思った…
 さすがにここまでは入れないらしい。扉を叩き破ろうとする感じがない…しばらく安全か。と


「誰だ?」

 別に驚きはしなかった、入った時から気配がしていたから。声の主は座っていた椅子から立ち上がりこちらに
近寄ってくる。

「ああ、ちょっとしたゴタゴタにまきこ…まれて」

 ドクン        と心臓がはねた。
 ところどころに白が混じっている黒髪。銀色の眼。その他いろいろ眼についたが何より眼についたのは
黒く光る額当て………簡単にある人物を思い出させる。

「……アル?」

「何で俺の名前を……って! カリムか!?」

 ……………………

「知り合いかカリム?」

 デニスの問いに答えることもできず俺の頭は真っ白になっていった。


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