デニスのせいで悩んでいたことなどすっかり消え去ってしまった。
その方がまぁ…いいんだけど。
ともかく駅で携帯食料など必要になりそうな物を買い込んで目的地に向かった。
「で半日かけてラベリスまで来たのはいいが、そろそろ仕事の内容を聞かせろよ」
「ああ。カリム…バッカスルクという国を知っているか?」
「少し前に滅ぼされた小国じゃなかったっけ? てかこの大陸にある国じゃないか」
確か凶暴化したモンスターの群れに襲われた国だ。モンスターの群れは退治されているが国の人間で
生き残った者はいなかったとかいうのを新聞で見た気がする。
「その国の王が実は生きていたんだ……正確にはモンスターの群れが襲ってくる前に逃げたんだが。
まぁ今は警察機構が身柄を拘束しているが、その辺の事情はいいだろう。とにかくいろいろあって国の持
っていた宝の所有権がウチの協会のものになったんだ。で、俺たちはその宝を回収しにいくわけだ」
「そんなの別に1人で足りるだろ? 宝が多いなら他にも誰か派遣させるハズだろうし」
「いや、宝はそう多くない。ただ王が逃げる際に宝を隠したそうだ。尋問でも口を閉ざしたままで宝の在
処がわからない。いくら小国とはいえ1人で探すには広すぎる」
「だから俺が呼ばれたと」
「ああ。協会の人間でもいいんだが、気があわない」
「俺だってオマエとは気があわないけどな」
オマエと気があう奴なんてパートナーくらいのも……それも怪しい気がするけど。とにかくそんな
に気のあう奴はいないだろうな。
「俺はそうでもないがな。それに、今協会の人間でこの仕事ができる人間は残念だが俺だけだ」
「は? 何で?」
「回収しにいく宝は歴史的価値が高い。よって早急に回収することが望まれる。それを考慮すると俺だけ
しか空いていなかっただけだ」
「へぇ」
歴史的価値の高いお宝ね…さぞかし金になるんだろうって…俺のバカ! 肝心なこと聞いてないじゃ
ねえかよっ!!
「おい、この仕事の報酬はどうなんだ!?」
「回収した宝を金に換算した10分の1が取り分だが?」
「そうじゃなくて俺の! 俺が貰える分!!」
「7:3の7がお前でどうだ?俺は治療費が払えればそれでいいからな。もし足りなければもう少しもらうこ
とになるが…」
「ま、そちらのご好意に甘えておくよ」
それで一度会話はなくなり黙々と歩き続けた。まぁここまで来るのに半日使ってるわけでもう夜だからそん
なに進まないでキャンプとなったが。
「おーい、テント作業終わったぞ」
「こちらも食事ができた」
「んじゃ、いただきますっと」
手を合わせて言い、飯を食べる。携帯食料の割に味は及第点だった。だがバイトで出してもらった夕飯に比べ
ればどうしても見劣りしてしまう。うう、何故かひもじい。腹はいっぱいなのにひもじい…
デニスはあいかわらずと言うか、自分のペースでガツガツ食ってる…ん…だけ……どぉ。
「なぁ、それ……何?」
デニスがパンに塗っているジャムのような物を指差す。
「俺が作ったジャムだ。43種類の薬草を使っているから健康にいいぞ、いるか?」
「いい、俺もう腹いっぱいだし」
首をふって軽く断ったが、本音は絶対食いたくない。俺の眼が正常なら黒紫色してるぞあのジャム。
デニスは何の問題もないように食っているけど、アイツ以外食えないぞ絶対。
「ところでカリム」
「ん? ジャムはいらねぇぞ」
「いや違う。お前は"ソールド"のNoが派遣されたのは何故だと思う?」
……何でコイツはいちいち蒸し返すかね。
「さぁ?俺らと同じような仕事を受けたとかじゃねぇの?」
「それはないだろう。協会でない者が宝を拾えば違法行為だ、警察機構が動く。"ソールド"とて例外ではない
ハズだ。だとすれば何か別の目的があるとしか考えられん」
「んじゃあ…何だよ?」
「それを今お前に聞いたんだ」
「俺は確かにディスウィリウムにいたけど"ソールド"には所属してなかったしな、よくわからねえ」
「そうか、なら別にいい。もう寝るとしよう。火の番は…」
「俺がしといてやる。眠くなったら起こす」
「わかった。では頼む」
そう言ってデニスはテントに引っ込んだ。
「ふぅ」
空には雲1つなく月が輝いている。デニスは汽車の中では"ソールド"のNoが派遣された可能性があると言った
が今はまるで確実なことのように話していた。かく言う俺も十中八九そうだと思う。
「そろそろハッキリさせねぇといけないのかな…」
出てって4年……もう怖いだの言っててはいけないのかもしれない。そりゃあ知り合いに出会えば厄介な
ことになるだろうけど
「厄介ってんならアイツが来た時点でもう厄介なんだ…とことん行ってやる」
厄介の主のいるテントをちらりと見る……………次は何だ?
なにやらテントが微妙に崩れ……あ、潰れた。
どうなってんだ? ワンタッチでポンなタイプのテントだから崩れたりはしないハズなのに…?
駆け寄って被害の場を見る。これは………テントの鉄骨が叩き折られてるのか? コイツは寝ながらなんて
面白いことをしてるんだ。まぁテントは2つあるから俺は平気だけど
ふむ、だが面白い。このまま放っておこう。うんそれがいい。
そのまま火の側まで戻り、酒のビンを開けて口にする。決意したおかげか、月が綺麗なおかげか………
どちらかはわからないが、飲んだ酒はひどくおいしく感じられた。
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