ガタン ゴトン ガタン ゴトン………
 目的地が何と汽車で半日かかるなんていうバカげた話のため汽車に揺られているわけだ

「どうしたカリム? 酔ったか?」

「そうじゃねぇんだが…汽車で行く仕事で嫌な事を思い出した」

「嫌な事?」

「ああ。マッ……いやいや何でもない気にしないでくれ」

「そうか」

 それっきり会話がなくなり7時間程経ったと思う。腰が痛い……
 だというのに頭の中から筋肉のイメージが無くならない…しばらく汽車には乗れない気がする。

「……カリム」

「何だ? 今なら話は大歓迎だぞ」

 筋肉の事を忘れられる!!

「? …まぁいいが。実は黙っておこうかとも思ったのだが、この仕事は正式に
トレジャーハンター協会からの依頼だ」

「いや、そうでないと困るだろうが」

「俺が言いたい事はこれからだ。確証はないが俺たちが向かう場所……それは
もう少し後で説明するが、そこに"ソールド"のNoが派遣された可能性がある」

 ドクン    と心臓がはねたのが自覚できた。
 "ソールド"っていったら………

「ディスウィリウムの特殊部隊……そしてディスウィリウムはお前の住んでいた所だろう?」

「……………ああ」

 それだけ答えるので精一杯だった。さっきまであった筋肉なんてイメージは完全に吹き飛んだ。
 体の疲れもきれいに消え去った気がした。ただガタン ゴトンという音だけが耳に入った。

「もし無理なら今から引き返してくれていいが?」

「いや…ここまで来たし手伝ってはやる。けど……」

「悪いが何故Noなどが派遣されたかについては知らん。……そういえば聞いていいか?」

「何だよ?」

「お前は何で保護条約のできた後、帰らなかった? いや、帰らないにしても何故手紙の1つでも
出さなかったんだ?」

「!! オマエ何でそのこ…っ!?」

 あわてて口を押さえるけど遅かった。やられた……
 いつもなら「さぁ?」とでも言ってるのに……それ程慌ててたって事か?

「……はぁ…そりゃ隠してもしょうがねぇけど。別に手紙は出さないでおこうと思った
わけじゃあないんだけどさ」

 そう、何回か手紙を出そうとは思ったんだ。でも出せずに破り捨てた。
 だって………

「怖かった……か?」

 ……クソ。だからコイツは嫌なんだ。普段は非常識の頑固バカでしかないのに
 こんな時だけ心を読んだかのような事言いやがる。

「ああ、そうだよ。怖かったよ」

 あ、何だよその驚いた顔!

「てっきり否定すると思ったがな」

「相手が嘘の通じる奴ならそうするけど、オマエは通じねぇもん。それにオマエはいちいち周りの奴に
喋ったりしないだろうし」

「そうか」

「………って、聞かないのか?」

「俺が聞くことはもう聞いた」

「………あっそ。じゃちょいと寝る」

「わかった。目的地に着いたら起こす」

 ……………そう。怖かったんだ。
 みんなを巻き込まないため…なんて理由で出て行って、実は自分勝手な理由で出て行った自分が
 手紙なんて送るのはなんて卑怯なんだろうと思い、怖かった。でも、それでも手紙は何回か書いた。
 あの時。出て行くときに泣かせてしまった妹が、血の繋がらないけど妹のように俺に懐いてきていた
ファムを泣かせてしまったことが気がかりで手紙を書いた。
 でも自分勝手な理由で泣かせておいて、手紙を送ろうなんてそれこそ卑怯なんだろうと思い、やっぱり
怖かった。
 俺が出て行った時、俺と同じ教室で"ソールド"のNoだったのは1人だけだったが、もし国の兵にならずに
ディスウィリウムに残っているなら同じ教室の奴はほとんどが"ソールド"に所属した可能性が高い。俺の
いた教室は一番そういう訓練をさせられたクラスだったし。
 ということは自然とこれから向かう先で知り合いに会う可能性が高いってことだ。もし会ってしまったら
俺はどうしたらいいのだろう? …………疲れてたのか俺の考えはそこで途絶えた。




「…ム、起きろカリム。着いたぞ」

「んあ……」

 着いたのか。ああ、まだ眠い……………………オイ。

「デニス。1つ聞きたいんだが、何故俺の真横にナイフが突き刺さってるんだ?」

 眼を覚ました俺の真横に小型の投げナイフが突き刺さっている。1pズレたら眼にグサリだぞコレ。

「ふむ、それだ」

 そう言ってナイフの先を指差す。……………………………蚊?

「………もし俺の額にでも止まってたらどうする気だったんだ?」

「………………………………ラッキーだな、カリム」

「殺」

 周りの眼なんてなんのその、駅員3人が止めに入るまで俺はかまわずデニスを殴り倒した。

こんな奴死んだ方が社会のためだっ!!!


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