「復讐…?」

「そう復讐だ。この街の人間はねぇ…王様が自分達を見捨てて逃げたのを知ってしまったんだよ」

 デニスが仕事の説明をするときにしていた話を思い出した。
 確かにアイツも王がモンスターに襲われる前に逃げたと言っていた。
 だがそれを知ったくらいでどうしたら死神の王なんて呼び出せる?
 ゆっくり体を起こす…銃は見当たらないか……
 リッチーはそれを止めるでもなく話を続ける。

「そして死してなお消える事のない怨念を抱き続けた……そんなことで私は呼び出されたんだから
笑っちゃうだろ?人間とは本当に不思議だよ。種族としてはそれ程のレベルでないのにかかわらず私を召喚
したり、あまつさえ制限を与えているのだしね。それに今日は君たちのような者にも出会った」

「お褒めの言葉どうも。にしても死神の王がそんなことで召喚されてるなんてな、おまけに制約だ?」

 立ち上がろうとして痛みが走る…肋骨が何本か折れてるな。
 なおさら時間を稼がないといけねえじゃねえかよ

「そうとも制約さ。能力の制限はもとよりこの場所に縛られている。それとこの姿だ。まったく……
屈辱だよこんなのは、でも私を楽しませてくれたのも事実だ。だから私は新たな王となったわけさ。さて、
時間稼ぎはもういいかい?」

ああ、いいよ

 声はリッチーの背後のアル………いつの間に!?
 それはリッチーも同じみたいだ。そりゃそうだろうさっきまでは俺の隣で俺と同じくうめいてたんだから。
 リッチーは舌打ちして黒球を数え切れない程出現させて自分を包み込んだ。
 一閃
 振り下ろされた剣にリッチーを包んでいた黒球は吸収される。
 流れるように軌道を変えた剣はリッチーに襲い掛かる。
 リッチーは一気に後ろに跳ぶと、またいくつもの黒球を出現させた。
 それを避ける。避ける。避ける。避ける。避ける。
 降り注ぐ黒球の雨をかすりもさせず避け続ける。なんとも異様な光景。
 ん?
 その異様な光景に違和感を覚えた。

何でアルは吸収していないんだ?

 そんなことを考える間にアルは避けながらもリッチーに近寄っている。
 そしてリッチーめがけて剣を振るう……その前にリッチーの前に魔法障壁が出現する。
 アルがそれを斬り………そこで止まった。

「なっ! ……アル!!」

「吸収したくてもできねえんだ! くそっ…やられた」

 言って眼前のリッチーを睨むアル。
 やられた? リッチーが何かしたってのか?

「わかってないみたいだね、変な魔法の人。彼の吸収はね剣で斬ったりしたものの魔力を全部吸収しないと
次の吸収を行えないんだ。そこで私はさっき自分を包んでいた黒球を斬らせた時にそのまま魔力を流し続け
て、今もそうしているからまだ吸収し続けている。よって今は吸収できないんだよ」

「だからどうしたんだよ」

「強がりはよしなよ。確かに人間離れした運動能力だけど吸収ができないなら私は殺せない、今みたいにね。
それにこんな攻撃もどうにもできない」

 今まで魔法障壁だった壁が黒い閃光になった。
 避けられるハズがない。
 瞬きした間にアルは吹き飛ばされ動かなくなった。

「アル!! ………っこの野郎!!!」

 右手で拳をつくり殴りかかる。
 拳が当たる直前に体が浮いた。

「があっ…!!」

 ズザザアッと転がる体。
 肋骨が折れていたのもあって体の痛みが凄い。
 でもそれよりもアルの方を確認しないと…まさか死んだなんて言わせねえ。
 だが現実には動かないアルがいて
 ただ無力な自分がいる。

「ハハハハハハハッ!! 諦めなよ。見たところ銃は近くにないみたいだし勝ち目はないよ?」

 リッチーの声が聞こえた…気がした。
 というより聞こえていなかった。眼に見えた光景に集中していた。
 アルの指が僅かに動いた。
 何を意味し何をするべきか悟った。

「おらっ!!」

 体は痛むがかまわず全速力で走り、殴りかかる。
 さっきと同じく吹き飛ばされる、その間2秒。
 その2秒の間にアルがリッチーの右腕を斬った。

「貴様ああああああああああっ!!!!」

 腕から血……のようなものを流して今まで聞かなかったくらいの声で叫ぶリッチー。
 俺とアルは同時に言いたかったことを言った。

「「その台詞が聞きたかったんだよ」」


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