「「いたい、いたい、いたい〜〜〜〜っ!!!」」

 部屋の中には2人の声が響いた。声の主はクスとツキである。
 では何故そんなことを叫んでいるかというと2人とも頭を鷲づかみにされ力を込められているからだ。
 じゃ誰がそんな事をしてるかってぇと……んなもん俺に決まってる。

 事の顛末は簡単だった。
 クスとツキ…この2人は家出というと語弊があるが、まぁそれと似たような感じで俺のとこに来たらしい。
 例の警察機構と軍の手にも負えない事件…どうも本当らしい。それで村中で俺を雇うかどうかでもめてた
そうなんだが、あまりの煮え切らない態度に我慢できずに飛び出したのだそうだ。
 で、俺を連れてきたのはよいが説教されるのが怖くなり悪党にしたてあげたわけだ。
 最初マリベル(2人の母親らしい!?)がそんなに怖いのか? と思ったが、どうも2人が怖かったのは…
あのマッチョらしい。
 俺はこの部分でだいぶ納得した。確かにあのマッチョ、しかも同じような顔が5人。それに説教されるのは
考えるだけで暑苦しい…子供なら尚更だろう。が、悪党扱いは腹が立つので今こうしているのである。

「あの…っ、カリムさん…それくらいで。この子達も反省してますし」

 さすがに自分の子供が痛い目みてるのがかわいそうになったんだろう。だがそれには取り合わず答えた

「俺さ、力加減の調節うまいよなって言われたことあるんだ」

「え…じゃあ…あまり痛くないんですか?」

「泣く一歩手前」

「ええっ!!? ちょ…カリムさん〜!」

 これ以上はきついかな。俺は鷲づかみにしていた手の力を抜いた。そのとたん自由になったクスとツキは
うんうん唸りながらふらふらとどこかに歩いていった。多分自分の部屋だろう。

「はぁ〜これですっきり♪……で、マリベル?」

「あ、はい?」

「あの2人に連れられて来たけど俺はまだ依頼内容を聞いてないし受けるとも言ってない。一応依頼主は村全体
として考えるが、依頼内容をおおよそでも聞きたいんだが」

「わかりました。実は最近……」

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 もともとバカバカしいと思っていたのだが話は想像していたより深刻だった。
 事の始まりは二週間前村の手前の山道で旅人の死体が発見されたことからである。
 その時は旅人が凶暴な獣に襲われるのは稀にあるので手厚く葬ったのだが、それから数日後
この村に物資を運ぶ乗り物の運転手が殺される。さすがに魔法科学の乗り物に乗っていた人間が殺される
というのはおかしいと思い、警察機構を呼んだところそいつも殺され、軍を呼んだがそれすらも殺された
そうだ。その後何度か警察機構も軍も人を派遣したらしいがことごとく殺されたらしい。
 不思議と村の人間は殺されず、この村に来ようとしている人を殺すらしい。
 犯人については何もわからず、それ以前に人かどうかも怪しいくらいらしい。

「事情はわかったが……後は報酬しだいだな。いくら出す?」

「いまのところ出せるのはこれ位で…」

 指で4を示す。40万か……また微妙な…

「4万なんですけど……カリムさん? いきなり倒れてどうしたんです?」

 アキレテタンデス。いやいや、俺だってこんな村からそんなに報酬が出せるとは思ってなかったが…
 いかん…気をしっかり、俺。さぁ立って。

「さすがにそりゃ却下だ、悪いが別のとこ当たってくれ」

「はぁ…ですよね。でも…どうやって帰るんです?」

「…………………え?」

「えっと…来る時は村の人たちに殴られて気を失ってたから大丈夫だったと思うんですが…帰りは」

 ここでようやく俺はクスとツキがそのため……俺を村に入れ帰れなくするため…そうして嫌でも
 依頼を受けないといけなくさせるために悪党にしたてあげたのだと気づいた……

ハハメラレターーーーーッ!!!!あんなガキにいぃぃ!!!!!

「あうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜……」

 そのまま俺は床に突っ伏した。鼻を打ったかもしれない。ちょっぴり泣いてたかもしれない。
 でも俺は気を失っていたからわからなかった。マリベルが叫んでいたような気もする。
 でもその時ばかりはもう何もかもを忘れていたかった……


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