料理。酒。料理。酒。料理。酒。料理。酒。料理………
どこまで続くねん、これは。村に戻りゴーレムを倒したと伝えた途端、宴会が始まりやがった。
うれしいのはわかるが村の広場で所狭しと料理と酒並べて…全部食えるのか? コレ。
クスやツキはというと、既に料理を山ほど食い、子供ながらに酒に挑み、敗れた。
マリベルはというと酒を飲んでいる……みんな浮かれてて気づいていないが、樽2つ分は飲んでるぞ。
……………酒豪だ。
とにかくみんながみんな本当にうれしそうにしている。けど終わりだ。
「村長」
村の人間に酒を注いでもらっていた村長は呼ばれて怯えた顔を見せた。原因は自分とばらされると思ったんだろう。
ハァ…やっぱ気づいてないか。
「いいかげん気づけ、アンタ死んでるぞ?」
その瞬間、村の人間の視線が村長に集中する。当の村長はといえば何を言われたかわからず混乱していた。
「何をおっしゃるのです? カリムさん??」
「気づかないのかもしれないが、アンタは死んでるんだよ。例の化け物の顔がアンタと同じだった」
「ですから、何を……」
「いいか? よくよく考えりゃ当然だったんだ。どんなものであれ魔方陣なんかで呼び出そうとするには
代償が必要だ。ではあの魔方陣の要求した代償は何か? アンタの肉体だ。アンタは自分が死んだことを
認めようとせず精神だけでこの場に存在してるんだ」
わけのわからない死に方をした人間なんかでこの村長のように精神だけで存在するというのは稀にある。
まさかこんなトコでお目にかかるとは思わなかったけど。
「ああ……あ……あああ……」
ようやく気がついたらしく村長が声を絞り出して立ち上がった。その姿は既に透明がかっている。
「そうか……私はあの時もう…死んでいたのか。…みんな、今回は私のせいでこのような
惨事に巻き込んでしまい、申し訳ない。カリムさん。ありがとうございます。……………
ただ、みんなに知っておいてほしい。私はただ村の安全を願っただけなの…だ………と」
そして村長は消えた。
あれから数時間後。いろいろ大変だった。
村長が消えてしばらくした後、マッチョA〜E(存在を忘れていたのに!!)と何人かの村人が事情を
説明してくれとうるさかった。マッチョを優先して沈めつつ、残り何人かもきっかり沈め診療所に送った。
で、宴会の後片付けをして、マリベルの家で事情を簡単に説明したメモを書き終えた。
ふぅ〜…………あ〜眠気が………………
情けないことに夜まで寝込んでしまった……ううっ。
つうかもうみんな寝静まっている時間だ。ま、今からなら終電には間に合うだろう。
音をたてず外に出ると、マリベルが立っていた。
「マリベル?」
「カリムさん!? 大丈夫ですか? いきなり眠ってらしたのでどうしたのかのと」
「あ、いや大丈夫だ。うん。んで、もう報酬ももらったし(ちゃんともらった)帰ろうかと思うんでよろしく」
「えっ!? でも終電まで3時間あります……よ?」
田舎ーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!??? 3時間って!!?
「あの……」
「ん?」
「よければお話を聞かせてほしいんですけど」
お話……………あ〜そういえば。
「俺は何で"感染者"の事にこだわるのか聞きたいけどね」
「それは……」
「嫌ならいいけど、それならこっちも進んで話そうってことはできないぞ?」
「………………っ」
泣いてる〜…………ってええっ!? ちょ…ちょっとおっ!!?
しばらくすすり泣きしていたが、すぐ落ち着いたらしい。あ〜アセッタ…
「私の夫が"感染者"だったんです」
「…………あ〜」
地雷だ。地雷を踏んでしまった。ヤバイ〜
「あの人はただ子供たちといっしょにいたかっただけなんですが、軍の人間はそんなことで納得してくれなくて」
殺されてしまった……と。言わないだろうけど、そんなとこだろう。
条約ができるまで、隔離指示に従わない"感染者"は殺されるのが決まりごとだったし。
「んで? 何が聞きたい?」
「…後悔してますか? 当たり前の生活を捨てたこと」
「……どうだろうな。確かに隔離されてたら条約ができた後普通に変わらない生活してたんだろうけど
俺はきっと外の世界を知りたかったんだろうと思う」
「外の…世界ですか?」
「ああ。俺は周りの人間を巻き込みたくないって理由つけといて実は引き取られてからずっと変わらない
世界から抜け出したかったのかもしれないから……後悔って言われると正直どうなんだろうな」
「そうですか…」
「ま、俺はあんたの夫じゃねぇし、あんたの望む答えなんか聞かせてやれないけどさ。あんたは後悔してるか?
夫を無理矢理にでも隔離させなかったこと」
「いいえ! そんな事絶対ありません!! そんなこと…」
「ならそれが答えだろ。俺がどういう話を聞かせようがあんたの中に強い思いがあるならそれでいい。だろ?」
「………はい」
「んじゃ、行くわ。のんびりして帰るとする」
よっと…あ〜帰れる! まずゆっくり寝るかな〜ああ! 生きてるってすばらしすぎる!!!
「カリムさん」
「ん? まだ何か?」
「きっと、意味がありますよ」
「?」
「カリムさんが外の世界に出たことにはきっと意味があるんですよ」
はははっ!はははははははははははっ!!
「だといいんだけどね」
振り向かずにそう答えて俺はゆっくり歩き出した。
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