朝。1日の始まりでもあり、また終わりを迎えるための出発点でもある、朝。
俺は、まだ日が出始めて薄暗い山道を歩いていた。ある程度歩き、銃を少し離れた木に向け、狙う。
先の戦闘と魔方陣の解読できた点から、相手は木などが多い場所で素早く動けるようなタイプと
推測できる。だが、それ以外は何も解っていないのだから、どのみち正攻法での勝負になる。
ならば遠慮する必要はない……こちらも正攻法でやるだけだ。
「赤の契約をかわせし拡散の使命を受けし兵よ、行け!!」
唱え、撃つ。弾は狙いどうり木に当たり、その瞬間爆発が起きる。爆発はそのまま後方へと
広がっていく。熱を帯びた風が頬をなで、轟音がまだ眼の覚めていない山道に響き渡った。
『銃魔法』――――― 俺はそう呼んでいる。"感染者"となってしばらくしたある日、唐突に目覚めた能力で
詳しいことは使っている俺自身も知らない。ただ、銃魔法と言っておいて、本当の魔法とは若干異なる点がある。
『魔法』は基本的に魔力と呪文詠唱、道具などを媒介とするが、『銃魔法』は呪文詠唱と弾丸を媒介とする。
魔力を使わない分安定した威力がでるが、弾丸の数しか使えないので、弾切れになれば当然使えない。
俺は爆発でできた空間の中央まで走り、立ち止まった。木などがある場所が得意なら場所を変えれば、あるいは。
そう思ってわざわざこんな派手なことしたんだ、これでまったく駄目だったら……関係ない。正攻法で攻めるだけだ。
正攻法……己の持てる力をすべて叩き込む。言うだけなら簡単なんだがね〜
と、突然目の前にゴーレムが姿を見せた。そのまま俺の周りを威嚇するように飛び跳ねる。
だが、以前のような異常な速さではない、きちんと眼で追える。どうやら考えは当たりらしい。
(これならっ!!)
飛び回るのをやめ、こちらにゴーレムが跳躍する。突き出された右手を怪我で使えそうにない左手で受け流し
蹴りをいれる。ゴーレムはそのまま吹っ飛んだが空中で姿勢を変え、苦も無く着地した。
「別にオマエが殺した人たちがどうだの、んな偽善者ぶったこた言わねぇがよ」
いつでも動けるように体勢を変える。
「白黒はっきりさせないと気がすまないんだ……来いよ」
言い終わると同時に後ろに跳ぶ、そして唱える。
「白銀の契約によりうまれし鎖っ!!」
ゴーレムの足元に着弾。そしてそこから何本かの雷光が放たれる。ゴーレムはそれを器用に避けて
こちらに迫ってくる。だが、その後ろでは避けられた雷光が集まって雷球となりゴーレムに向かって飛んできていた。
ゴーレムの攻撃を横に跳んでかわし、ゴーレムの動きが一瞬止まった隙に雷球がゴーレムに直撃した。
「黄の契約によりうまれし槍っ!!!」
すかさず四発続けてゴーレムの四方に撃ち込む。着弾と同時に四方から鋭利に尖った土がゴーレムめがけ伸びた。
が、ゴーレムは難なく跳躍しこれをかわした。……石像に神経なんかあるハズないんだから麻痺を起こすことなど
期待してなかったが、少しはダメージがあってもいいだろうが!?
走ってゴーレムとの距離をとりながら、銃に弾をセットする。敵を確認しようとして予想外のものの接近に気づき
驚いた。何か尖った物、初めはそう思ったがよく見ればそれはゴーレムの仮面の口の部分から伸びていた。舌だ。
……てめぇは本当にゴーレムかっ!!?
だがそれは現実に眼前まで迫ってきていた。上体をひねってこれをかわし、左手で打ち落として、足で押さえつける。
これで捕らえた!! と思った瞬間、ゴーレムの口から舌が切り離される。
ああああっ!! このエセゴーレムがあっ!!!!!!
だが向こうからすれば自分をここまで手こずらす相手は異常なのかもしれない。心なしか動きが警戒しているようだ。
「ったく、てめぇより強い奴なんざいくらでもいるっての」
呟き程度のその言葉に、仮面で表情の読めっこないゴーレムがうろたえたように見えたのが可笑しかった。
「だいたいてめぇはゴーレムだの言ってても所詮は木偶人形だろうが。木偶人形は木偶人形らしく大人しく
飾られてろ!」
ゴーレムはまだ動かない。自分の役目をいかにして果たすか考えているのだろうか? 無駄とも知らず。
「諦めろよ。てめぇは勝てない、絶対にだ」
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