「今じゃ皇の家系の者ですら知らないけどね、君たちの家系は昔はとある国の皇帝だったんだよ。
まぁ、だからこそ君たちの先祖は分身をつくるなんていうことを考えたんだけどね。
一人の人間が複数の事を極めることができるようにしようと思ったのは、そうすることで自分は何も
できない偉そうにしているだけの皇帝ではない、ってことを民に示したかったんだ」

 淡々と語るカルク。
 "皇帝"の皇はそれを聞きもせず、ただ呻き続ける。

「そして試行錯誤を重ね、魔法使いと協力し今のような独自の家系を作り上げた。聞いた話では
一番すごいので十人くらいの分身を持った者もいたそうだよ。そして分身の中でも"破壊"と"皇帝"
の能力を持った分身は最強だった。その点では君の本体の皇 三帝はだんだん魔法の効果が弱まって
いる状態の中では一番優れた人物になるね。とにかくそうして名を馳せたというのに周りからは認めら
れなかった。そして皇はその理由を考えようとしなかった」

 相変わらず皇はカルクの語ることは聞かず呻く。
 というよりはもう聞きたくても聞けないという感じだった。
 だがそれでも、カルクは語ることをやめようとはしない。

「自分の理想を現実のものにしたのに認められないってのは確かに哀れだ。心の底からそう思う。
でもね、君たちの家系はそう言われてもある意味仕方がない。だって君たちの家系はそもそも理想自体
が間違っていたんだから」

 そこまで語って初めて皇が反応したような、気がした。
 表情という判別がつけられないのでそれも定かではないが。

「何もできない皇帝でないと示したいなら、それなりの政策を考えればいいんだ。何も分身をつくる
なんていうことしないでも皇帝ということを示す方法なんていくらでもあるのに皇はそれを選んだ。
いいかい? 何故"破壊"と"皇帝"の分身が最強だなんて言われたと思う? 政治に必要な能力ではないのに
だ。それは、皇が理想を現実にしたことで、民を力で従わせるようになったからだ。もう分かるだろう?」

 問いかけていつ消えるかも分からない皇に歩み寄るカルク。
 皇はただ呻くだけで動こうともしない。





 ただ、その姿は少し焦っているようにも見えた。





「皇はね、民から慕われる人間になる努力をすべきだったんだ」

 歩みを止めず、手に持っていた杖を強く握る。

「だってさ、いつの歴史だって民に慕われない皇帝なんてすぐに――――――」

 皇の手前までやって来て杖を構える。

「すぐに殺されちゃうんだから、さ」

 一気に構えた杖を皇に突き刺す。
 杖を突き刺された皇は悲鳴すらあげず、ただ消えていった。
 それを見終えて、空を見上げる。
 暗闇の空の中でところどころ光を放つ星々を見て呟く。

「死にゆく者にああいった話は、呪いをかけるようなものなのかな」

 必要とされて生まれた自分が実は必要ではなかった。
 その事実を死んでいく間際に聞かせるとは何て残酷、何て非道。
 それは死んだ後にでも苦しみを与える、まさに呪い。
 だけど自分にはそれを酷いことをしたと悲観できる資格などない。

「たくさん、殺したから…ね」

 視界を下ろし歩き出す。
 ともあれ始まったばかりの夏休みに起きた怪事件は終わりを告げた。
 だったらそれを喜べばいい。
 そう思い、カルクはその場を立ち去った。

-------- ◆ -------- ◆ -------- ◆ -------- ◆ --------

「ねぇ、海行こうよ、海!」

 皇の一件から数日後。
 同調を解除した後の激痛に苦しんでいて、やっと動けるようになった俺に四神がいきなりそう告げた。

「……正気か、四神」

「あったり前よ! せっかくの夏休みなのに海に行かないでどうするの!?」

「でも…俺は今日起きれるようになったばかりだぞ?」

「だからよ、いい運動になるじゃない」

「うっ…」

 反論できずに言葉が詰まる。
 それに機を見たのか四神はさらにたたみかけるように話す。

「それにどうせ起きれるようになったから何かしようと思ってたんでしょ? ちょうどいいじゃない。
それに武が寝込んでた間の看病してたお返ししてくれてもいいんじゃないの?」

 看病の点を責められるともう何も言い返せない。
 四神に世話になったのは紛れもない事実だからだ。
 四神の顔をちらりと見る。

 その顔は、思わず見惚れるなんて間違いを起こしそうになるくらいに綺麗に笑っていた。

 借りがある上に、そんな顔されたのではもう断るなんてできるはずない。

「わかったよ…行こう」

「やったぁー! そうこなくちゃ! もう準備できてるから早く着がえてね!」

 ドタバタと立ち去る四神を見て、始めから行くことを前提で話しに来たのかなんてことを思っていた。
 とにかく行くと言ったのだから準備はせねばなるまい。
 ベットから起き上がり、着替えをし始める。

 着がえているうちに、夏なんてあっという間なんだし確かに海とかもいいかもな、なんて結論に達した。
 そうと決めれば後は早い。
 夏を満喫するだけである。

「武、まだー?」

 ドアの向こうから四神の声。

「ああ、もう行くよ」

 少しにやけそうになる口を手で押さえ、俺は歩き出した。


第二夜    終了

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