「どうしたんですカリムさん? さっきからずっと落ち込んでいるようですが」
「自分の考えつうか価値観つうかに自信が持てなくなっただけだ」
「よく分かりませんが、仕事はきっかりとして下さいよ」
と、手錠をかけたドロボウを引っ張るポーレウス。
まぁ言ってることはもっともだ―――――だけど
「分からない」
「? 何がです?」
「何でこの女まで逮捕してるんだよ?」
ちら、と横目で被害者である女を見る。
その女の手首にもきっちりと鈍く光る手錠がかけられていた。
………何で?
「何でって……あんなおかしい発言するような人ほっとくわけにはいかないでしょう」
「聞いてたのかよ!?」
「当然です。私を過小評価しすぎですよカリムさんは」
うわー、すっげームカツク。
その言葉ってよりか、このダメ警官にそんなこと言われたってことが。
「あのな――――――」
カチャリ。
ポーレウスに言い返そうとしてそんな音を聞いた。
カチャリ?
何だ、まるで手錠がはずれたかのようなこの音は。
というか………はずれてるな、手錠。
「――――――って!!」
気がついた時には既に自由の身になったドロボウと女がそれぞれ別々の方向に駆け出していた。
「あばよーーーーー!!」
「あはは、危険な物や恥ずかしい物が入ったバックちゃ〜〜〜〜ん」
ドロボウはすぐ隣にあった路地裏へと続く道へ。
最後の最後まであのままなのか疑問な女は人ごみの中へと。
「な、―――――何故!?」
「何故ってそりゃあドロボウだし手錠くらいはずせるだろ。あの女もそれっぽそうな道具くらいバックに入って
そうだし」
「そんな……」
「ていうか聞いとくけどお前手錠の向きちゃんとしてたのか?」
「―――――――――え?」
「いや、だからさ、手錠の向き。鍵穴が肘の方に向いてないといけないだろ。手の方に向いてたらそれこそ手首
ひねったら鍵穴いじれるじゃんか」
「あ、ああ、そうですね」
「で、どうなんだよ? ちゃんとしてたのか?」
聞かんでもおおよそ予想できるんだけどな。
て、あ、眼逸らしやがった。
「それは……失敗したととってもいいんだな?」
「まさか! 私がそんなミスするはずないです」
「じゃ、人の眼見ろよ」
「単にアレです、アレ。鍵穴の位置がいつの間にか変わっていただけで――――」
「ああもう! とりあえず殴る!!」
拳をこめかみに打ち込む。
確認しなかった俺も俺だが、このダメ警官は………!!
「そ、それで……どうしましょう…………?」
「さっさと追わんかいっ!!!」
「は、はい!」
「お前はドロボウ! 俺はあの変な女だ!!」
そう言って走り出す。
確信した――――――――俺はおかしくなんかない。
少なくともあんなダメ警官よりはマシだ。
□――――――――――――――――――――――□
「そのバックはぜぇったぁいに開けちゃだめよおおおおおおぉぉぉぉぉ〜」
そんな叫びを残して女は警察機構の人間に引っ張られていった。
時刻は夜、場所は警察機構の支部。
どこで何時待ち合わせということを決めてなかったから直接ここに来た。
ここならあのダメ警官も嫌でもやって来るハズだ。
「にしてもどうせ逃がしただろうなぁ」
うん、絶対逃がした。
逃がす以外の結果なんてありえないな。
「失礼です、カリムさん」
「うわーー!!」
いきなり現れるなよな、驚くだろうが。
「ったく、で? その口ぶりは捕まえたのか? ドロボウの奴」
「はい」
「………何ィ!!」
「ですから失礼です!! 私だってそれくらいできます!!」
「う……。まぁ信じたくないが捕まえたんならいいか。で、どこだ? もう他の連中に引き渡したのか?」
「いえ。捕まえたのはいいんですがカリムさんとどこで待ち合わせるか決めてなかったのでどうしようかと思って―――」
あ、すっごい嫌な予感。
何か後の展開が想像できてきた。
「とりあえずドロボウと手分けして探して、今こうしてカリムさんを見つけたんです」
「ドロボウと手分けして?」
「はい」
「……手錠とかは?」
「手分けして探すんですからそんなものしてません」
「お前、それってドロボウ逃がしたようなもんって分かってるか?」
「え? でもドロボウとは後でここで待ち合わせして―――――――」
「ドロボウがわざわざ自分から捕まりにくるわけないだろうが!!」
「――――――――っ、ああっ!!」
ああ、―――――――――頭痛がしてきた。
「あ、でも!」
「………何だ?」
「2度捕まえたわけですからきっと3度目も――――!!」
「あるわけねぇだろうがぁ!!!!」
叫び声とダメ警官をはたき倒すいい音が建物に響いた。
後日――――ポーレウスがドロボウを捕まえる際に乱射した麻酔針の被害者からの苦情が警察機構に
殺到して、てんやわんやの大騒ぎになったとか。
第1話 終
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