「シボウシャ」



一瞬の対峙

彼の右手のナイフが滑りゆくのと

相手の放った銃弾が打ち落とされるのは同時だった。
彼は言う。

「まったく、火薬も使わないでここまで殺傷能力のある銃が作れるならヤクザの人相手に商売でも
したら?儲かるかもよ?」

相手は答える。

「貴様こそそれほどの戦闘能力があるならヤクザにでもなればどうだ?周りから重宝されるぞ」

彼は走る。
相手は迫り来る彼に銃を撃ち続ける。

彼は放たれた銃弾をナイフで打ち落としさらに迫る。
相手は肉弾戦に切り替えることにした。

彼は相手の拳、蹴り、その他もろもろの攻撃を避けて相手の手首を斬る。
相手は手首を犠牲にして彼の背中に銃弾を撃ちこんだ。

相手は問う。

「貴様は容易に人を殺せるクセに何故人を殺さない?」

彼は答える。

「人を殺しても僕の欲しいものは得られないからさ」

「欲しいものだと?」

「そう、僕は死が欲しいんだ」

「ならば何故人を殺さん」

「人を殺して得られるのは他人の死。僕が欲しいのは自分の死だ」

「なに?」

「僕はね、わからないんだよ。自分の生きる理由とか意味が。こんな虚無感しか持てない
自分は果たして生きているのか、それを実感したいんだ。だから生と表裏一体である死を得たい。
そうすれば自分が生きていたということになるからね」

「シボウシャだな、それでは」

「死亡者?」

「違う。死を望む者で"死望者"だ。貴様は自分の死を望むのだろう?」

「それいいね。でもそれじゃ君も敵の死を望む者で"死望者"だね」

「この減らず口が」

「そうでもないよ」

二人は殺しあいを再開する
それは七日七晩続いても終わる事はない。
彼は自分の生を望むが故に自身の命を死にさらす者と対峙する。
相手は自分の生を望むが故に自身の命を死にさらす者を殺す

この勝負は決して終われない。
彼は死を感じたい故に相手を殺したりはしない。
相手は死を消したいが故に相手を殺す。
両者が死を望んでいても、片方が望むは自身の死なのだから
両者が相手の死を望む事で成り立つ殺しあいは、二人には当てはまらない。

だからこそ終わる事はないし、終われない。

いずれ両者同時に力尽き、どちらともなく立ち去る。

似た道を歩きながら異なる道を歩く二人の死望者。

二人はこれから先も数奇なる運命の下、殺しあう。




この話は初期設定のレシピの予告です。今と全然違いますね。ちなみに二人に名前はありません(笑)




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